第145話 原因も結果もミズキ次第03
「では暑いところに行きましょう。避暑ならぬ避寒とでも申せましょうぞ。冬には冬の暖かさを追求するのが人間という物では?」
とはアインの提案。
「暑すぎるのは嫌いだぞ?」
一応念は押している。
サウナなら話は別だが、結構貞操観念はしっかりしているアインとドライ。
――見習え、かしまし娘。
そう冬の空を通じて念じかける。
三つのくしゃみは寒波のせいか?
ともあれ、
「――――」「――――」「――――」
怒号が聞こえる。
金属音。
打突音。
悲鳴。
決着の宣言。
一番多いのは気合いの発声だろう。
「暑いでしょ?」
「暑苦しいって言うんだよ」
兵士の訓練場だった。
汗迸るムキムキマッスル。
とんとミズキには縁が無い。
もやしっ子とまではいかないが、魔術師であるため体は鍛えていない。
無刀を使えるのは偏に人体操作の効率化を目指した結果だ。
根本的にデスクワーク派なので、持っている戦力の可否はともあれ、彼の持つ能力は基本的に脳内に収まるのが順当だ。
閑話休題、
「せいれーつ!」
後に隊長と知る男が号令を発し、アインとドライの前で整列した。
全員頭を下げている。
挨拶ではない。
偉い人間より上から目線で目視するのが憚られるためだ。
「難儀な奴ら」
ある種精神的側面に於いて対極に位置する。
体調が片膝と拳をついて頭を下げる。
「アイン殿下ならびにドライ殿下。如何な様でございましょう? 何なりと御命じを」
――どうにかならんのか。
口にはせねども。
もともと以前にも思ったとおり、ミズキは税金で養われている側の王侯貴族が、税金で養っている側の平民より頭が高いことには否定的だ。
「ではそうですねぇ」
少し悪戯っ気が金色に映る。
「…………」
白銀の方はミズキに肩車されており、
「…………(むぅ)」
頭を下げていながら発する威圧はミズキの不遜をたしなめていた。
「訓練は順調ですか?」
「常に最良を目指しております!」
「先の一件では不徳でしたしね」
嫌味ではない。
王都の兵力の拙さを責める言葉だ。
ミズキに言わせるなら、
「自分の身くらい自分で守れ」
と相成る。
面倒が嫌だから何も言わないだけだ。
「全く全面的に仰るとおりにございます!」
ツヴァイの信者だろうか?
どことなく感嘆符が似ている。
「命を差し出しても王家を! 獅子王の紋章を守る! 前向きな反省を! 次こそ不届き者は殿下に近づかせない様邁進する所存です」
「趣味の悪いことに命を賭けるなぁ」
まっこと他人事だった。
「ツヴァイちゃんは?」
「殿下は今四大貴族の家をお回りになっていらっしゃる最中にございます」
「ふぅん?」
少し思案する様なアイン。
何か思うところがあるのか。
何時もなら確かに部屋に現われて突っかかってくるパターンであったため、その辺は息災だったからミズキ的には良いのだが。
「さて」
ここで本題。
「兵士の練度を見せて貰いましょうか」
アインがいつの間にか進行役になった。
「嫌な予感」
ポツリと呟くと、
「…………」
肩車されているドライがポンポンと白髪を叩く。
こっちも分かっちゃったらしい。
「ではミズキ!」
「様は付けないのな」
「王子様ですから」
「メディックを呼べ。統合失調症だ」
「健全です~」
「だいたい俺に惚れる奴は頭のネジが飛んでるんだよなぁ」
カノン然り。
セロリ然り。
サラダ然り。
ギフト然り。
ジュデッカは……少し怪しいが。
「では鍛錬の成果。しかとお見せしましょう!」
「頑張ってくださいねミズキ」
「そう来るよなぁ」
大方の予想に反しない。
「御客人に?」
隊長も少したじろいだ。
アインの病を治した逸れ者。
そのご恩だけで七代祟って尚足りぬ。
「やってしまっていいのか」
「大丈夫ですよね?」
「その根拠が分からんが……」
嘆息。
「後れを取るほどでも無いな」




