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第141話 三人の殿下は15


「どう思います」


「デコイだろ」


 アインの疑問に平然とミズキ。


 狂乱がマーチを乱し、武装した狂人たちが王族の牛車を狙って障害物の排除を始める。


「さすがに遠距離干渉は無理と見えるな」


 魔術の基本だ。


 一から仕込むにしても、一定数を揃えるのは時間がかかる。


 なお命令をどれだけ聞くかも疑わしい。


 月狂条例ルナティック


 それそのものは天然魔術として、


「ワンオフ魔術なら可能性は無いでは無い。ワンオフ魔術に限って云うのなら色んな突飛が有り得るからな」


 そう既に結論は出ている。


「仮にゼネラライズ魔術なら?」


 そこまで考えると冷や汗が出た。


 人を狂気に陥れるなら、どう考えても精神作用。


 となれば、


「幻属性か?」


 ミズキも知識としては幾つか魔術を知っているが、該当する現象は浮上しなかった。


「どうするんです?」


「俺を頼るな俺を」


 そもそも巻き込まれた側だ。


 国民の暴走なら王族が取り仕切らなければならない立場。


 此処で狂人の付き合いに乗るも反るも王族と護衛の器量の見せどころで、ミズキにはどこまでも付き合ってやる義理が無い。


「けどデコイって……」


「単なるルナティックで牛車の相対固定を突破できるか」


「とすると?」


「猟銃の出番だろ」


 そういうことになる。


 先の馬車がそうだったように、牛車にも相対固定アポジットフィクシングは展開されている。


 魔術陣による物で、事情を斟酌した結果、


「ミズキにお任せコース」


 を選択。


 魔術陣を取り扱う以上画一的な結果を生むのは必然。


 突破するにしろ崩壊させるにしろ、何某かの意図は必要だ。


「落ち着け! 皆の物!」


 エルダーは声高らかに民衆を扇動する。


「力なき者は逃げよ! 力ある者は戦え! 狂気に落ちた国民の是正こそ国家の依って立つところ!」


 その言葉がパレードの客に火を点けた。


 狂人となって王族弑せんとする威力に正常の威力が拮抗した。


「ま、戦略的には無理だからなぁ」


 正常な都民は逃げるか戦うか補助に回るか。


 これだけでも威力で十分なところに、魔術を使える王属騎士が更に控えている。


 襲う側は謳歌を唱える能力は持ち合わせていないはずだ。


 であれば真っ正面から狂人が騎士を上回ることは不可だろう。


「ミズキ」


「…………」


 アインとドライが抱きついてくる。


「離せ」


 王族相手に……今更だが遠慮のないミズキだった。


 一番の難題は狂人の戦力でも都民や騎士の掣肘でも無い。


 相対固定アポジットフィクシング


 牛車を包む魔術防御だ。


「仮に俺が王族を叩くなら」


「叩くなら?」


「…………?」


 黄金と白銀の瞳が真珠のソレを覗き込む。


「…………」


 その輝きは陰惨だった。


 ゾクリ。


 背筋の冷えるアインとドライ。


 自分らが抱きついている男の子が如何な存在か。


 眼力だけで覚ったのは王族としての必須能力だ。


 そこに一陣の風が吹いた。


「風?」


「魔術だ」


 少なくとも自然の風は相対固定を突破できない。


「ならなんで声は届くのだろうか?」


 未来での魔術論なら説明できるが、今の時代ではさすがに無理筋だ。


 神の悪戯。


 隙間の神効果と呼ばれる現象なのだが以下略。


「来るぞ!」


 鋭敏にして適確。


 魔力は注いでいるため相対固定は起動し続ける。


 であればソレを吹き消した鎮火の風の威力は一瞬。


 針の穴を穿つが如し。


 謳歌。


 宣言。


「――術式拡散システムディフュージョン――」


 魔術式を離散させる風。


 それが突風となって渦を巻き、自身の魔力で構築した相対固定を吹き散らし、牛車を包む。


 狂人がバタバタ倒れていく。


 魔術で狂化されているので術式拡散を受ければ解除も同様だ。


 そこに炎弾が放たれる。


 方角は西だが、射線に影は無い。


 そもそも宣言が聞こえてこなかったので遠距離狙撃だろう。


 おそらく、


太陽ザサン


 炎弾を放ち人や軍隊を爆殺する火属性の中級魔術。


 で、結果だけ知るなら姿を見せる必要もない。


 正式に威力が出たなら爆発音が知らせてくれる。


 それが無ければ術式拡散に阻まれたと言うこと。


「問題は」


 嘆息。


「え? まだあるの?」


「…………」


 アインとドライが口の端を引きつらせる。


「魔術以外にはただの風なんだよな」


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