第139話 三人の殿下は13
剛牛の引くパレードの牛車を見て、
「おー……」
とミズキは敬った。
筋力の発達した牛。
ソレによる引っ張られる車。
速度は出ないが、大物を引っ張るのに、「これほどの牛も他に無い」との結論で、実際にその解体して食べても筋っぽそうな筋肉は今時点で頼りに出来る。
高台を思わせる豪奢な車。
先にも言った牛車だ。
「コレに乗れと?」
「ですね」
「…………」
アインとドライが寄り添った。
「ちっ」
それがツヴァイには面白くないらしい。
直接的王位継承権の二人がミズキに惚れ込んでいるのだ。
「国家存亡の危機」
とも言えよう。
穿った見方をすれば……だが。
で、そのピンク色の矢印の進む先が麦の国に一切利得をもたらさないという潤いも何もあったモノではない無味乾燥さがツヴァイには危機的に見える。
「やはり俺様が……」
そう固く決心するツヴァイであった。
武力で以て国益と為す。
それがツヴァイの信条だ。
その積極性は王の器だが、「ソレだけじゃ片手落ち」がミズキの意見。
ついでにアインの意見でもある。
「…………」
ドライは何を考えているか覚れない。
結局王族も王族と言うだけで、そのお立場から自由になれないのだろう。
スラム街で餓死している国民に言い訳出来るかと言われればかなり難しいも、およそ恵まれているが故の弊害というのもやはりあるもので。
ついでにソレはミズキが最も忌避するモノだった。
「で、手を振れと」
「ええ」
「この牛車に乗って」
「ええ」
「俺も偉くなったもんだな」
「ええ」
肯定の言葉しか返ってこないのも不気味だ。
「ミズキ様は英雄ですから」
「然程でもないがなぁ」
高級の衣服を着て頭を掻く。
「何をした?」が率直な意見だ。
無論アインを救ったのだが、「別に国家運営には支障も無いだろ」との感想。
「諦めてくださいな」
そんなアイン。
「と言われてもな」
然程、「自分が大物」とも思えないミズキである。
むしろ「へっぽこ」と呼ばれる方に安心を感じるタチ。
それを麦の国に求めるのは、「無い物ねだり」に相違ないが。
「何してんだかな」
色々と振り返ってしまうミズキだった。
「では陛下一同は牛車へ」
招かれる。
ミズキもその一人だ。
高く設置された椅子。
その一角に座る。
顧みるに、「なして?」と思うが、
「諦めなさってください」
にゃ。
そんな感じ。
アインが抱きついてきた。
「…………」
それはドライも同じだが。
「王族の権威はどうした?」
「乙女心が大切です」
「…………」
アインの言葉にドライが頷く。
「でっか」
頭の頭痛が痛い。
そんなミズキ。
「別段そんなものを求めたわけでもないんだが……」
袖通りのいい衣服を纏ってミズキ。
「けれども」
とはアイン。
「お母様の第一子を快癒させた功績は大きいです。政治的な選択として安パイはやっぱり私ですから。出来ればミズキ様にも報いたく存じます」
「ケースバイケースだ」
ミズキにしてみれば、
「不可侵条約の提携だけでおつりが来る」
の印象だ。
牛車に乗ってチヤホヤされる意味が分からない。
「王族に嫁ぐ旦那様の顔を都民に覚えて貰うのも一興です」
「…………」
そんな二人だった。
「もうどーにでもなーれ」
宣言ではない魔法の言葉をミズキは呟いた。
そこに現われる魔的で恣意的な要素が煮詰まると、たまにミズキは暴走することがあるのだが、今のところ麦の国を滅ぼすのが舌先三寸でも平和主義に偏る程度には虚脱ものぐさを極めているのも事実の一片で。




