第137話 三人の殿下は11
「どういうことだ?」
とはミズキの言。
「何が?」
とはエルダーは答えなかった。
「英雄を称えるのも王族の使命ですので」
淡々と。
「パレードをするって聞いたが?」
「ええ」
「誰の?」
「アインに決まっているでしょう」
立ち直ったお姫様の祝杯。
それは納得できる。
「で」
問題はそっちではない。
自己の不道徳性というか不条理に対する克己心というか、その他諸々の理不尽さ加減の決着がどこに落ちるかと言うことで。
「何故俺が巻き込まれる?」
「特に意味はありませんが」
いけしゃあしゃあとはこの事だろう。
もちろんそんなことをミズキは望んでいない。
単に政治的に利用される程度ならまだしも、偶像として祭り上げられるのは彼の心情から言ってかなり外れている。
へっぽこでいい……が彼の主義主張だ。
「なら外せ」
「出来ればミズキ様には麦の国にも縁を持って欲しいのです」
「王立国民学院の生徒だぞ?」
「不可侵協定を結ぶ以上……意味は無いでしょう」
「…………」
スッと謁見の間の温度が冷えた。
「ミズキ様」
あわあわとアイン。
「冷静に」
「十二分に冷静だ」
「本当に?」
「敵対処理は適確に、だな」
「冷静じゃ無いですよ」
後ろから抱きしめられた。
プヨンと胸が背中に押し付けられる。
「ぐ」
そこで漸く彼女がわざと出ないことを把握したが、だからといって今この破壊力のエントロピーまでもが高まるわけでもなく。
「にゃー」
当人は気付いて無いらしい。
「ていうか王族が王城を出て良いのか?」
「その程度はしょっちゅうですが?」
「パレード……」
「当然……相対固定で対処もします」
「魔術は万能じゃ無いぞ?」
「けれども目出度いことなので」
何を言っても無駄。
そう思わせるエルダーの御言の葉だった。
「なおかつ今はミズキ様もいらっしゃいますし」
「俺か?」
「国家の英雄ですよ?」
「海の国に籍置いているんだが……」
「いつでも麦の国に帰順なさってください」
「にゃ~」
そういうことでもない。
「お前らだけで勝手にやってればいいだろ?」
「ミズキ様を見たいという都民に溢れていまして」
「付き合えと?」
「ですね」
金色の瞳は憂いを映してはいなかった。
単純に、
「かくあるべし」
との意見だ。
「…………」
しばし黙考。
何か思うところはある。
というより、
「無い方がどうかしている」
がミズキの理論だが。
「安全なのか?」
「さてそれは」
「だろうな」
いい加減、ミズキの不遜も慣れてきた頃合い。
「…………」
王属騎士の殺意も柔らかい。
「俺は何をすれば?」
「都民に手を振っていれば」
「あーっと……」
「それだけです」
「いいのか?」
この場合は遠慮とは無縁だ。
「もとより体裁が悪い」
を前提に、
「敵国の魔術師を歓待する」
ことへの懸念だ。
「構わない案件でしょう」
スルリと流れ出る言葉。
エルダーはサックリ言ってのける。
「テロリズムが怖くて王族はやっていけませんから」
別の世界では、
「ダモクレスの剣」
と呼ばれる概念だ。
――お前がそれでいいならいいんだが。
心中で納得。
ただし、
「結局俺の方に理屈は無いよな?」
それもまた事実だったりして。
「神様も粋なことをする」
それはミズキの先天的な皮肉だ。
生まれつきの治癒魔術師。
へっぽこ道の探求者であるのだから。




