第133話 三人の殿下は07
金色の髪。
金色の瞳。
可憐にして儚げ。
美の集大成で彫刻に勝る御尊顔。
「よ」
ミズキは気さくに声をかけた。
「ミズキ様」
さすがにアルビノの美少年を忘れるほど記憶がやわくちゃではないらしい。
「治しに来たぞ」
「え?」
時間は昼。
場所は中庭。
車椅子に座っているアインが硬直した。
宜なるかな。
「お母様が?」
エルダーのことだ。
「英断だな」
軽やかにミズキ。
「治して……くださるので……?」
「先に言った」
「ええと」
何やら思念と現実に摩擦熱を発生させているらしい。
「出来るのですか?」
「楽勝」
嘘ではない。
本来の治癒魔術の使い方だ。
そもそも自己強化に使っている方が間違いなのである。
ソレと知っているミズキではあるが。
「何を対価に?」
「知ってるだろ?」
「海の国との不可侵条約……」
「さいだ」
「結果を待たなくて良いのですか?」
「お前が死にたいならどうぞ?」
「?」
さすがに聞き逃せない言葉だ。
「死ぬ」
「死ぬだろ?」
「病気で?」
「毒で」
「…………」
しばし理解し難いらしい。
「無理もないか」
そうも思う。
「遅延性の毒だな」
「毒……」
「少しずつ弱らせる類の使い方だ。慢性的に摂取することで肉体の歯車を狂わせる……と表した方が正確だがな。ま、王族直系第一子ともなれば政敵の二人や三人はいるだろうが」
結局そういうことである。
「では私の体調は意図的に……」
「そういうこと」
「治せるのですか?」
「ん」
ミズキは右手を差し出した。
「…………」
アインも右手を差し出す。
ハンドシェイク。
ギュッと握る。
宣言。
「――治癒――」
あらゆる害性が消去される。
代わりに補填されるのは無病息災の肉体構造。
時間は一瞬。
平和は一生。
「ふえ」
完全に快癒した体を使ってアインは椅子から立ち上がった。
「アイン殿下!」
使用人の一人が支えようとするが、
「大丈夫です」
それをアインが遮る。
「大丈夫ですので」
しっかりと地面に立つ。
機動戦士。
「ほん……とうに……?」
あるいは不敬罪だろう疑問だったが、使用人の言葉は場の総意だ。
「だから言ったろ。治るって」
ミズキには特別なことをした覚えが無い。
ただ単純に、
「治癒」
を行使しただけ。
ただそれだけのことを、
「――――」
周りの人間は喝采を上げて喜ぶのだった。
「然程でもないがなぁ」
がしがしと後頭部を掻くミズキ。
「ミズキ!」
第一子……アインが名を呼ぶ。
その喜色まみれの言葉には、けれども確かな鼓動と熱気があって、その感情を雄弁に物語っている。
「何でがしょ?」
「愛しています!」
唇に唇が重ねられた。
恩人。
そうには違いない。
ただ、
「不可能を可能とする奇蹟」
その目映さは乙女を魅了してやまないのだった。




