第130話 三人の殿下は04
客として食事に呼ばれはするが、ミズキは応じることをしなかった。
一人客間で宛がわれた食事をする。
「テーブルマナーを知らないため」
を理由にして。
実際には、
「気品のある空間で食事すると味が分からなくなる」
が本音だ。
美味しい食事とあれば尚更だろう。
食事を終えた後、
「ふい」
と茶で一服。
外は夜。
魔術の街灯で城は明るい。
城壁で見えないが王都その物が明るくもある。
「雪……か」
シンシンと降る。
月光に冴える雪明かりは、多分それだけで眼福。
「珍しいので?」
茶を淹れる使用人が問うた。
戯れの言葉だろう。
「海の国ではあまり見ないしな」
麦の国と国境を接する半島国家。
海に囲まれているため比熱が高く、温暖な気候だ。
「ミズキ様」
「別に様は付けなくてもいいんだが」
「アイン様を……救えるのですか?」
「さてな」
別にリップサービスが必要な会話でも無い。
「お前としてはどうなんだ?」
「救って貰いたいです」
「さいか」
「出来るのでしょう?」
「知らんよ」
「むぅ」
「第一エルダーがこっちの要求を呑むとも思えんしな」
海の国は海兵隊を持ち接する海の産業を最大限に享有している。
その経済効果は計り知れず、麦の国が征服に乗り出すのも分からない話ではない……というかむしろ積極に理解できる。
それと愛娘を天秤にかけるという。
「前者に傾くだろうな」
がミズキの予想だった。
とはいえ、
「第二子がアレじゃあな」
「ツヴァイ殿下をご存知で?」
「少し会話した」
「で、あらせられますか……」
「茶のお代わり」
「ただいま」
二杯目を口にする。
「アレが冠かぶったら……」
「…………」
使用人も沈黙。
それが雄弁に物語る。
不敬罪を犯すわけにはいかないため否定こそしないが、感想は相似するのだろう。
「王位継承者は何人いるんだ?」
「直接的には御三人でございます」
「三人……」
「アイン殿下。ツヴァイ殿下。ドライ殿下。エルダー陛下の直系でございます」
「ドライ殿下」
まだ顔も知らない最後の一人。
「男か? 女か?」
「大層美しい御少女であらせられます」
「女……ね」
「そして大貴族の四家から血脈を受け継いでいる末端の王位継承権の持ち主もおられます。そこまで含めればおよそ王の血系としては盤石かと」
「あまり良い状況じゃないな」
「は?」
使用人がポカンとする。
ミズキはソレに何も答えず茶を飲んだ。
「美味い茶だ」
「恐れ入ります」
「仮面か」
ポツリと呟く。
男の方が都合はいいだろう。
その意味でツヴァイにとってアインとドライは政敵と呼べる。
「エルダーの夫はどうした?」
「お隠れになりました」
「さいか」
元皇妃。
今は国王。
「となると……」
やはり取り入るなら男の方が都合は良いだろう。
「厄介事は勘弁して欲しいんだが……」
「厄介事……ですか……」
責める様な視線。
「アインについて言ったわけじゃない」
半分は嘘だが。
「では何が?」
「こっちの話だ」
嫋やかに紅茶を飲む。
「出来ればアイン殿下には快癒して貰いたいのですが……」
「なんとでもなるさ」
「治癒魔術で?」
「誰かが死んでも世界は回るってこった」
「本当に不敬罪ですね」
「ついでに不経済でもあるな」
一銭も発生していない。
「雪……ね」
窓の外。
魔術灯の光に照らされた雪を見て紅茶を一口。




