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第13話 鉄壁砦のひみちゅ04


「はっ」


 馬車は、山道を問題なく走る。


 で、桃色の髪の乙女……その扱いに困った彼らは、保護することにした。

 護衛している馬車に乗せたのだ。


「どうやら栄養失調兼体力消耗が祟った」と見たミズキは、治癒魔術を乙女にかけた。


 すると乙女は、パチクリと目を覚ました。


 そして先の発言である。


 寝転んでいた状態から起き上がると、警戒するように低く伏せ、


「何者ですか!」


 少女はミズキたちに問うた。


「こっちのセリフだ」


 彼の返しも無遠慮だ。


「敵でも追っ手でも山賊でもなさそうですね……」


 油断なく、ミズキとセロリを、交互に見ながら乙女。


「ブラックウォッチのジャケット……まさか海の国の学生魔術師ですか?」


「はあ」


 セロリが、ポカンとしながら肯定した。


 とりわけ嘘をついてまで否定することでもない、と思ったからだ。


「良かった! ではこの馬車は王立国民学院に?」


「そこから出発してグラス砦に向かっている最中だ」


「だ、駄目ですよぅ! つまり麦の国付近まで向かってるってことじゃないですか!」


「その議論は後として……お前は誰で何者だ? 俺はミズキ。王立国民学院の生徒だ。……で、こちらが……」


「セロリはセロリだよ。肩書は同じく」


「カノンの名はカノンと申します。一応麦の国の魔術師です。亡命希望ですが」


「亡命って……海の国にか?」


「はい。できれば王立国民学院に保護してもらいたいところです」


「それはまた何で?」


「これ以上を今は言えません。学院に保護されたらそこで説明させていただきたく」


 そこまで言って、グギュルルゥと、桃色の髪と瞳を持った美少女……カノンは、馬車の中に備蓄されている魚の干物や燻製を見て、腹を鳴らして涎を垂らした。


「腹減ってんのか?」


「三日三晩飲まず食わずでしたから……」


「わかったよ。好きなだけ食え」


 これはミズキ。


 抗議したのは商人である。


 商品を勝手に食われて得することなど何もないから、当然の帰結。


「ちょっとばっかし程度ならお支払いいたしますが……」


 カノンは上等な服の懐から、宝石を取り出した。


 だいたい手で握り込める程度の大きさだ。


 それでも十分な価値を持つ。


 むしろ商人は、喜んで干物や燻製を譲渡する。


 中略。


「ご馳走様でした」


 カノンは、犠牲となった命に感謝した。


 馬車に積んであった商品の半分が、カノンの胃袋に押し込まれたのだった。


 尤も、代価は支払っているのだから文句の出ようもない。


「一飯の恩に与りました。感謝します」


 正座して頭を下げるカノン。


「俺もセロリも、何もしてないんだが……」


 食事を提供したのは商人で、カノン自身も代価は払っている。


 貸し借りで言えば、今この状況には、存在しない。


「しかして倒れたカノンを保護してくれたんですよね?」


「人道上だ」


「異国の人情に涙するカノンです」


 実際に泣いたりはしないのだが。


 要するに感謝の言葉である。


「しかしてグラス砦に向かうというのは容認できません。カノンは王立国民学院に向かっているのです」


「亡命……とか言ってたな」


「はい」


「魔術師とも言ってたな」


「はい」


「なら一仕事しないか?」


「仕事……ですか?」


「そ」


 コックリ。


 ミズキは頷く。


「学院の仕事だ。仮にお前が達成できたなら口利きもしやすくなるぞ」


「それは重畳です」


 満足げなカノン。


「それでお仕事とは?」


「山賊退治」


「その程度なら簡単です。要するに鏖殺すればいいのでしょう?」


「言ってしまえばそうだな。雑魚を相手にするんだ。これ以上は無いだろ」






「雑魚とは言ってくれるな坊主」






 最後の言葉は、ミズキでもセロリでもカノンでもない。


 唐突に馬車が止まった。


 商人の悲鳴。

 馬の悲鳴。


 そして鉈を持った武骨な男が、腐臭のする笑みで、ミズキとセロリとカノンを捉えていた。


 山賊だ。


 最後の言葉は山賊の男の言葉である。


 ミズキは、襲ってきた山賊の全体像を、一瞬で把握する。


 商人の馬車を囲んでいるのは五人だと認識して、肩の力を抜いた。


「別に自分が手を出す必要は無い」


 そう結論付ける。


「雑魚を雑魚と言って何が悪い?」


 山賊を挑発する。


「ま、言う分には構わんがな」


 意外と、山賊も懐が深かった。


「どうせ坊主は死ぬんだしな」


 次の言葉で台無しだったが。


「そっちの蒼色と桃色の嬢ちゃんは俺たちで大切に保護してやるよ。光栄に思え」


「……そういうよな」


 当たり前の結論に、文句をつけても始まらない。


 彼は、あくまで平静を貫いた。


 カノンについては知らないものの、


「セロリをどうにか出来る」


 と思っている山賊に、哀悼の意を表明したいくらいだ。


「ほら嬢ちゃん。殺されたくなかったら馬車から降りろ」


「はあ」


 ポカンとしながらセロリ。


 そして馬車を降り地面に足をつけると、爪先で地面を蹴って、


「――剣山刀樹ソードフォレスト――」


 呪文を唱える。


 次の瞬間に起きた反応は、劇的だった。


 剣刀槍戟が、地面から雨後の筍のように生え出て、山賊たちをモズの速贄に変えたからだ。


「ぎ……!」

「あああああああああぁぁぁぁっ!」


 唐突に地面から現れた剣刀槍戟は、ミズキたちを取り囲んだ山賊五人の内……四人を串刺しの刑にして、死に至らしめる。


「ふう」


 疲労の吐息をつくセロリ。


 魔術は魔力を消費し、魔力は体力を消費する。

 こればっかりは魔術の業だ。



 剣山刀樹……それがセロリのワンオフ魔術である。


 効果はご覧の通り。


 剣刀槍戟を地面から出現させて、敵を串刺しにするソレだ。


 威力および範囲ともに絶大。


 この魔術一つとっても、セロリは戦術級魔術師と言えるだろう。


 そしてセロリのジャケット……その胸ポケットについている勲章は、これが由来なのであった。


「すご……」


 感嘆とするカノン。


 ミズキやセロリにしてみれば、これが正当な結果なのであっても。


「さて」


 彼の方が呟く。


 山賊五人の内、剣山刀樹によって死に至ったのは四人。


 当然これもセロリの判断である。


 ミズキとしても、


「言わずともわかる」


 ことだから何も指示してはいない。


「ひぃ!」


 恐怖に心を絡め取られて逃げ出そうとした山賊の生き残りだったが、生憎と成功はしなかった。


 ミズキが、関節技をかけて拘束したからだ。


 山賊の片腕を取って、腕ひしぎ十字固めをかました。

 いまだ人類の文明に、プロレスというものは存在していない。


 山賊の呼吸が逆流して、悲鳴が上がる。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何故に仰向けにならないとかけられない腕ひしぎ十字固め……? 普通逃げようとする相手は此方に背を向けるわけで、背中側に肘関節を極めて地面に押し倒し拘束するか、背後から突き倒しつつ体勢的…
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