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第129話 三人の殿下は03


 特にすることも無いため、ミズキは城を散策していた。


 一応客分であるため丁寧に扱われているが、暇も事実。


 使用人は一定の距離を保つし、王侯貴族はあまりいい顔もしない。


「都市の隅っこで餓死する子どもたちを見たことはないのか?」


 そんな皮肉の一つも言いたくなる。


 面倒が嫌いな無精である故、言わないが……それでもときおりルサンチマンと云う奴は金持ちに対する不平不満を覗かせる。


 しばらく歩いていると中庭に出た。


 庭園。


 そう呼べたろう。


 冬の花々が色彩で視界を彩る。


 そこには少女と使用人がいた。


 温度は低いが陽光は相反して暖かい。


 透明な膜で包まれた庭園だった。


「…………」


 ふと少女と視線が合う。


 金色の髪と瞳。


 エルダーやツヴァイと同様の色。


 で、あれば王族だろう。


 その程度はさすがに分かる。


 美少女だった。


 顔の造りは丁寧で、彫刻を思わせる。


 覇気の足りない雰囲気は儚げで、金色の瞳は淀んでいた。


 大切にされているのだろうことが容易に想起される……ソレは彼女からにじみ出る幸福の一つの形。


「アイン殿下……か」


 麦の国の王。


 エルダーの第一子。


 たしかに今にも死にそうなオーラだ。


 その淀みの中に少しの光。


 ミズキと視線を交差させて、クイクイと手招きをする。


「無視するか?」


 と思いながらも透明なフィルターの温室に入っていく。


 今更暗殺も無かろう。


 そんな判断。


 使用人たちが警戒するが、


「止めよ」


 と鶴の一声。


 アインの言葉で後方に控える。


「初めて顔を合わせますね」


「だな」


 先もそうだったが、特に王族だからと畏れ入るミズキでも無い。


 不遜は罪だが、


「裁ければな」


 とのテーゼが付き纏う。


 使用人たちが殺気立つが、気にする二人でも無かった。


「白髪白眼の美少年……あなたがミズキ様ですか?」


「ですな。アイン殿下」


「ようこそ麦の国へ」


「ま、暇だったし気にするな」


 不敬罪が山の様に積み上げられていく。


「私のためにわざわざ……」


「観光のついでだから気にすんな」


「面白い御方です」


 本当におかしかったのだろう。


 クスクスとアインは笑った。


 陽光を金髪が反射して謳う。


「治癒魔術の使い手と聞きましたが……」


「過不足無く」


「私も治して貰えるのでしょうか?」


「それはあんたの母親次第だな」


「嬉しいです」


「人の話を聞いてたか?」


「王女にむかってタメ口をきいてくれる人物は希少ですので」


「海の国の納税者だからな。麦の国の政治に関しては責任も感じずに済むし放言も許されるだろ」


「ええ、ですから気持ちが良いのです」


「そりゃ重畳」


 ミズキの不敬も中々だ。


「花が好きなのか?」


 温室で花を眺めているので至極真っ当な予想。


「ええ」


 どこか熱を持った肯定だった。


「カスミガ、ダンノウ、ヨリト……冬の花だな」


「お詳しいのですね」


「暇潰しに本で読んだことがあるだけだ」


 花が好きなわけではない。


 言外にそう言っている。


「持って行かれますか?」


「いらね」


「気に入りませんでしたか……」


「そうじゃない」


「?」


「いつか枯れる花を手元に置いておくと感傷に浸っちまうんでな」


「人の一生を桜に例える詩人もいますね」


「然りだ」


「でもだからこそ今が美しいのでは」


「永遠はあるぞ」


「え?」


 アインの知るはずもない言葉。


 不老不病不死。


 ミズキが証明している。


 ここで話すことでは無いにしても


「お前が育てているのか?」


「指定はします。ですが歩くのもままならない身ですので、お世話は使用人が」


「宮仕えも大変だな」


「有り難い限りです」


 穏やかに笑ってそんなことを言う。


「なるほど」


 エルダーが救おうとするわけだ、と納得。


 彼女は下々のことを考える「優しい王」の器だ。


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