第128話 三人の殿下は02
子どもの命と国益。
そのどちらを取るのか。
それがエルダーの悩みだった。
その間ミズキは食客として王城でもてなされた。
部屋を一室宛がわれ、キングサイズのベッドに寝っ転がって読書。
王城の蔵書量は図書館にも匹敵し、暇を潰すのは簡単だ。
ぼんやりと王城で過ごしていると、
「貴様か!」
男性が一人、室内に入ってきた。
金色の髪。
金色の瞳。
着ている服は高価で、しなやかにして袖通りの良い仕立て。
「誰?」
ミズキの言も尤もだ。
「お母様の第二子……ツヴァイだ!」
「お母様って誰よ?」
「エルダー母様に決まってるだろ!」
「えーと……」
思案。
「要するに王子殿下」
「おう! 俺様が王位後継者だ!」
「はあ」
ぼんやりと。
「お前が件の魔術師か!」
「何を以て件?」
「治癒魔術の使い手だ!」
「感嘆符なしで喋れないのか?」
「良いから答えろ!」
「さいですが」
「では出て行け!」
「なして?」
「姉様には死んで貰う!」
「言い切るな」
いいのかそれで?
心中ツッコむ。
「麦の国の王と為るべきは俺様だ! 俺様こそが王位を継承し、この国を支えねばならんのだ! その利得を欠ける因子はあらゆることをもって対処せねばならん!」
「頑張れ」
あまりに空々しい応援だった。
パラリと本のページをめくる。
「俺様の言葉を聞いているのか!」
「一応」
「不敬罪だぞ!」
「ですね~」
「死ぬ覚悟はあるんだろうな!」
「無い」
というか死ねない。
「姉様が回復すれば王位は簒奪される!」
「簒奪はお前の方だろ」
ツヴァイの妄言に冷静にツッコむ。
「梅干しみたいな顔した……ええと……エルダーか」
「母様を侮辱するか!」
「老婆も大変だな」
「死にたいらしいな!」
「落ち着け」
相手にするのも馬鹿らしい。
そうは思うが、
「殺しても面倒になるだけだしな」
が唯一のストッパーだった。
「ご老人が死んでからアイン殿下に王位を譲って貰えば良いだろ?」
「叶うと思うか!」
「全く」
ほとんどこき下ろしも同然だ。
「では死ね!」
ツヴァイは抜剣した。
「剣の心得があるらしい」
そう認識するミズキ。
だからといって殊勝に死ぬ気にもなれないが。
「うおお!」
上段からの振りかざし。
「――鎌鼬――」
その刀身を風の刃で断ち切る。
根元から折れた剣の刃を掴んでポイ捨てする。
「死にたいのか?」
殺気は無い。
淡々と冷静にミズキは言った。
決着はついている。
折れた剣で魔術師に抗するのは無理があった。
「俺様を殺せば……!」
「別の殿下が王位に就くな」
「……っ!」
つまりエルダーの別の子どもには都合が良い。
「どうする? 此処で死ぬか? 俺は別に構わんぞ?」
不敬。
不遜。
不敵。
三拍子揃ったミズキである。
「ぐ……む……!」
気圧され、
「覚えてろよ!」
逃げ出すツヴァイ殿下だった。
「なるほどな」
分かったことが一つ。
「エルダーがツヴァイを王位に就けたくないわけだ」
ノリが小物だ。
王の器には程遠い。
「ババアも大変だな」
色々とエルダーも苦労人らしい。




