第127話 三人の殿下は01
「お疲れ様でした」
護衛騎士が頭を下げた。
何かと言えば王都に着いたのだ。
麦の国の首都。
市場は活発。
流動性も高い。
金本位制もでもあるため、貨幣で売買が為される。
賑やかと言って良いだろう。
大陸でも大国の一つだ。
色んな物産が集まり、買って買われて売り売られ。
馬車は街道を進んで王城の城門を潜る。
城壁は高く積み上げられ、一種の防御姿勢。
「別に意味もなかろうがな」
はミズキだからこそ言える感想ではある。
馬車を降りて騎士に誘導される。
あっさりと城内に入れられた。
「いいのかそれで」
とは思ってしまう海の国の納税者。
とんとん拍子で連れて行かれ、
「…………」
謁見の間。
玉座におわす麦の国の王と対面する。
名をエルダーと呼ばれる。
麦の国の納税者は、
「エルダー陛下」
と慕っている人物だ。
「よくぞ来てくれたの」
第一声はエルダーだ。
金色の髪と瞳の老齢の女性。
白髪が少し混じっているが、読み取る雰囲気に劣化は感じられない。
王の気風があり、何処か偉そう。
というより偉いのだが。
「ども」
端的に答えるミズキもミズキだ。
特に媚びへつらおうとも思っていない。
謁見の間は玉座にエルダーが居座っており、ミズキが見上げる形。
そして王属騎士が並んでミズキの側面に列をなしている。
「汝、ワンオフ魔術が治癒と聞いたが本当なるや?」
「まぁ」
やはり端的な言葉。
畏敬も何もあったものではない。
王属騎士が殺気立ったがあまり気にもしない。
「その力を借り受けたい」
「何で?」
肝の太い質問だった。
「聞いておらぬのか?」
「王女殿下が伏せっているとは」
「治せるか?」
「知らんよ」
最大級の不遜。
少なくとも一国王に対する応答ではない。
「無礼な!」
王属騎士たちが剣の柄に手をかける。
「殺すのはいいが、その場合王女殿下はどうなるだろうな?」
「…………っ!」
至極ご尤もな意見だ。
「治せなかったらその首撥ね飛ばすぞ……!」
「ご自由に」
特別脅威でもない。
砦と戦争して勝ちきれる戦力だ。
王城程度ならどうとでも出来る。
それがまた騎士の殺気を波及させたが、
「明日は明日の風が吹く」
ミズキは慮ることをしない。
「では客人」
エルダーがミズキを呼ぶ。
「ミズキだ」
「ミズキ様」
「へぇへ」
「我が愛娘を助けてくれんかの?」
「条件が一つ」
「何か?」
ピクッとエルダーの眉が痙攣する。
騎士たちの殺気はいや増すばかりだ。
「海の国への軍事的侵略の完全放棄。これを王族の矜持にかけて誓ってくれればどうとでもしてあげますよ」
「ふむ……」
思案するようなエルダー。
戦争は国益に適う。
そういう意味では悩むのも仕方ないだろう。
「別に強制はしないがな」
エルダーにタメ口をきく不遜なミズキ。
「そもそも王女殿下が死んだところでこっちには損することも無いし」
「貴様っ!」
王属騎士の一人が激発した。
抜剣して襲いかかる。
「――突風――」
宣言。
強烈な風が騎士を打ち据え壁に叩きつける。
「遅くなったが」
ミズキはコキコキと首を鳴らした。
「魔術師を謁見の間に入れた時点でどうかしていると思っておけ」
殺しゃしないがな。
口の端をつり上げてミズキは宣言した。




