第122話 麦の国は危険がいっぱい08
「はあ~。あったか」
村で一泊することになった。
次の都市までは距離があり、馬を休ませる意味でも此処で足止め。
ミズキはラクレットをもしゃもしゃと。
チーズのコクとジャガイモの甘みが何とも言えないハーモニー。
馬車の相対固定はミズキの魔力で賄っており、護衛はいるがあまり心配もない様子。
食事を終えた後は風呂に入り、ベッドへ。
そこで獣の狂奔が遠吠えとなって聞こえてきた。
「…………」
ミズキとしてはあまり面白くないが、状況は深刻だ。
月狂条例。
もはや陰謀論がどうのと言っていられる段階でもない。
そもそもの目的が利敵行為であるから、それは良しとしても、「面倒」の二文字で一蹴するミズキは中々に肝が太い。
「月がねぇ」
別段感慨も湧かないものだが。
外に出る。
村は狂乱だった。
月の出る夜で、街灯も無いため星がきらめく。
シンチレーション。
その月光がどう作用したか。
狂わせること大なり。
ルナウルフとルナベアー。
要するに狂った狼と熊が人里に下りてきて猛威を振るっているわけだ。
「いい加減にしろよ」
とは思うがルナベアーの狂乱ぶり凄まじく、
「家屋すら破壊しかねん」
との危機。
「まぁ食事も美味しかったし恩くらいは返すか」
その程度の認識で、ミズキはルナティックに敵対した。
逃げ惑う村人と掣肘する騎士。
「――――!」
吠えたルナベアーがミズキに襲いかかる。
ただの熊でも脅威であるのに、さらに強化された存在だ。
一般人にはどうしようもないだろう。
生憎ミズキは常識から遊離しているが。
「――鎌鼬――」
ザクリ。
縦一文字。
抵抗もなく風が切り裂いた。
左右に分かたれて絶命するルナベアー。
さらに複数のルナベアーが襲うが、同じ末路を辿る。
そっちに意識を割いていたミズキの背後からルナウルフが襲う。
宣言は唱えない。
「っ」
呼気一つ。
回し蹴りがルナウルフの顎を捉え、軌道を直角に変える。
風の斬撃が追加で襲う。
切り裂かれて絶命する狼。
ミズキに限って容赦という概念はあまり親しくない。
騎士たちも苦戦するモンスターを悉く屠ってのける。
何が下地にあるのかは知らない方が良いだろう。
「――真珠散弾――」
これはジュデッカ。
複合属性である氷の魔術。
氷塊を弾丸としたショットガンだ。
避けにくく、なお威力も高い。
少なくとも生物であるなら驚異的だ。
「さて」
鎌鼬でモンスターを掃討しながらミズキは尋ねる。
「偶然か?」
「そう思いたいところですけど」
実際に月狂条例は天然魔術だ。
運用に当たって作戦がどうのというレベルには無い。
「それで良く政治が出来るな」
「色々とありまして」
さすがのジュデッカも苦笑い。
「寒い」
もこもこセーターを着て白い息を吐く。
ルナベアーが襲ってきたが、
「何するものぞ」
と云った様子。
ザックリ切り裂く。
「仮にコレが指向性を持つなら」
馬鹿馬鹿しいかも知れないが、そりゃ危機感の一つも抱く。
「狙いは俺……か」
他に無い。
そもそもモンスターが適確に馬車並びにミズキたちを襲うのがどうかしてる。
そこを加味して考えれば、
「ミズキが邪魔」
は確かに理に適っている。
対処はほとんど反射だ。
「――術式拡散――」
宣言したミズキに熱塊が襲う。
「太陽」
だろう。
「そうなるよな」
おかげで確信も得たが、
「まぁいいか」
全く良くはない。
面倒事はミズキの嫌う最たる現象だ。
が、今から帰るは通じないだろう。
「邪魔な事情は叩いて潰す」
基本的なミズキの危機対処だ。
殆ど不条理の極致だが、ミズキが言えば説得力もついてくるわけで。




