第120話 麦の国は危険がいっぱい06
「良い天気だな」
「良い天気ですね」
ミズキとジュデッカは馬車の屋根にて日光浴。
寝そべってぼんやりしていた。
時折茶を飲んだりして。
茶道楽……カノンの茶が恋しくもなる。
「雪の一つも降らないか?」
そうは思うが、生憎と太陽は絶好調。
もこもこセーターを着ていれば、馬車の暖房無しでも暖かい。
「結局襲撃者は何なんだろうな?」
首を傾げるミズキ。
そもそも王家に反抗することが自殺と同義だ。
そこに金をばらまいて山賊をけしかける。
「謎の人物?」
「その暗躍?」
まぁそうではあろう。
「この場合、誰が得をするのか?」
そこを注視せねばならない。
まず順当なのは王子の類。
第一子アイン殿下がお隠れになれば、玉座が巡ってくる。
「となると第二子殿下?」
ミズキはそもそも麦の国の政治状況を知らない。
得に興味も無い。
冬。
新年を他国で迎えるためだけの客分だ。
「何故命を狙われる?」
不条理の最上級表現だが事実だ。
背景の黒白は於いておくとしても、その最終目標がミズキであるのはどうしても否定しがたい。
「恨まれる筋合いでもないんだが」
「恐れているのでは?」
「だよなぁ」
要するにミズキが邪魔なわけだ。
「エルダー陛下のご意向は?」
「知りませぬ」
「だろ~な~」
然程期待しての言葉でも無い。
「こんなことになるとはな」
「ごめんなさい」
「お前が原因じゃあるまいよ」
「でも……切っ掛けは……」
「偏に相手方の責任」
本当に……ただそれだけ。
「先輩は……」
「ん?」
「優しいですね」
「そうかね」
自覚は無い。
自分を卑下して安寧を得るのがミズキだ。
褒められるより貶められる方が、
「性に合っている」
とも云う。
かしまし娘はまるで納得していないが。
「ジュデッカ」
「はい」
「茶」
「承りました」
紅茶を注いで渡す。
魔術陣による魔法瓶。
温かなお茶が差し出された。
「うむ。美味い」
「恐悦至極です」
ジュデッカも嬉しそうだ。
パッカラパッカラ馬車は進む。
策謀があるなら、
「第三幕」
「第四幕」
も想定せねば為らないが、
「まぁ何とかなるだろう」
がミズキの意見。
「で結局」
ポヤッと。
「俺は殿下に会って良いのか?」
「そもそうでなければ呼び出されたりはしませんよ」
「他国に利すること大だな」
「否定はしませんけど……」
利敵行為。
そうとも取れる。
「ま、いいんだが」
本質が治癒魔術。
人を癒す魔術だ。
であれば、
「苦しんでいる人を救う」
のもミズキの能力の内。
意識の内では無い辺りはミズキらしいが。
「…………」
パッカラパッカラ。
馬車が走る。
その屋根で温かい紅茶を飲むミズキ。
「ま、何にせよ」
嘆息。
「上手く行くわけも無いよな」
それは嬉しくない予言だった。




