第118話 麦の国は危険がいっぱい04
日の暮れる時間。
ミズキたちは街で一泊することになった。
一応スケジュールは組まれているらしく、
「無理して足を伸ばす」
という観念とは無縁だ。
大陸に於いて最も力ある国家。
麦の国。
四方八方に戦争を仕掛けている印象があるため他国は邪険にしているが、戦争は経済を回す。
当然商人も集まるのだった。
海の国も半島国家で輸出入に国境線……麦の国の影響を受けるため、色々と苦労していると聞く。
ミズキは、
「知らん」
で終わらせるが。
こと穀物の生産量は逞しく、最上級のホテルでグラノーラをザクザク食べるミズキ。
馬車は無事だ。
本来は護衛騎士が魔力を調達して相対固定を維持する必要があるが、
「じゃあ俺が」
とミズキが魔力を大量に注ぎ、結果として魔力の継ぎ足しが必要ないレベルに昇華された。
「何者為るや?」
も当然の疑問だが、そもそもからして宮廷魔術師の数十万倍のキャパシティを持つミズキには大海から一滴の水を取り去った結果だ。
「ふお」
驚いたのはミズキ。
無論魔術陣と馬車についてでは無い。
最上級ホテルの最上階。
スイートルームの豪奢さだ。
高級革のソファ。
天蓋付きのベッド。
ホテルサービスは無制限。
風呂は、
「プールか」
とツッコみたいくらい広かった。
当然魔術陣の恩恵もあるため、冷暖房完備。
ホテルの最上階全てがたった一人の客のために用意された設備である。
つまりミズキ。
ついでにジュデッカもお世話になった。
「いいのか?」
こんな贅沢をして、という意味だ。
「先輩ですから」
あまり誠実な答えとは言えない。
本棚もあり、娯楽も完璧らしい。
壁紙は鮮やかな白で、照明は装飾されている。
シャンデリアという奴だ。
「うーん。ブルジョアジー……」
悩むミズキ。
当人は不安を覚えていないが、
「もし俺の魔術が意味なかったら費用はどうなるんだ?」
との懸念もある。
太陽の匂いのするフカフカのベッドで脚をバタバタ。
「えと……先輩……」
「何でっしゃろ?」
「二人きりですね」
「却下」
「まだ何も言ってませんよぅ」
「頬に赤みがさしている時点でボツ」
「うぅ」
カノン。
セロリ。
サラダ。
かしまし娘がいない。
今はジュデッカがミズキを独占している形だ。
「誰にも言いませんから」
「ソレを信じるほどヤワな頭じゃねえな」
乙女の、
「誰にも言わない」
は殆ど不条理だ。
別に抱いても実質的な不利益を被るわけでもない。
かしまし娘も恋人でないのだから義理も存在し得ない。
単に、
「面倒くさい」
というだけだ。
「一緒にお風呂……」
「一人で入れ」
容赦の欠片も無かった。
「うう……ぐす……」
乙女の涙。
「とりあえずは歓待されましょ」
ということで娯楽本をとってベッドに寝そべる。
本を読みながら温々と過ごすミズキであった。
お風呂は別々。
ベッドも別々。
色々とジュデッカの扱いも散々だ。
良心に呵責を覚えないミズキには釈迦に説法だろうが。




