第113話 エピローグ
学院祭は終わった。
「運命分解?」
ジュデッカが首を傾げる。
「そ」
晴れ渡る青天白日が晒される喫茶店のテラス席で、ミズキはジュデッカと茶をしばいていた。
で、
「先日の魔術が何なのか?」
と問うたところに出てきた言葉がソレだ。
運命分解。
風属性のゼネラライズ魔術。
その究極。
因果律に干渉し、
「在ったこと」
を、
「無かったこと」
に変えてしまう破格の魔術だ。
魔人との戦いでは、
「ミズキが魔人と戦った痕跡を無かったことにした」
というわけだ。
無論ジュデッカの極寒地獄も、
「魔術の適応をなかったことにした」
で済む話。
自身が無敵でありながら、なお因果すら歪めてしまうと云う。
規格外と云って尚足りない領域。
別に誇るミズキでもないのだが。
ちなみに治癒魔術の方については深く話していない。
コレを知っているのはかしまし娘とギフトだけだ。
が、事実は事実として、
「ミラー砦殲滅」
の根幹がミズキであれば、
「どうしろと?」
がジュデッカの反応。
至極真っ当な難題だ。
ワンオフ魔術を使ってさえ殺せないのだから、
「何をかいわんや」
そんな心境にも為る。
「ていうか立場バレバレだったんですね」
「お粗末に過ぎるな」
ジュデッカが麦の国のエージェントだったことだ。
ミズキには、
「別にどうでもいい」
程度の肩書きでしかない。
死んだ人間すら蘇らせる治癒魔術。
攻撃が攻撃の意味を為さず。
人質が人質の意味を為さず。
防御も魔術で意味を為さず。
まさに、先のジュデッカの認識の様に、
「どうしろと?」
との命題に直面するだろう。
「気にすんな」
と云われて打算を放棄できるなら文明はもっとやりやすい。
「学院全体を一斉解除とも為ると……」
どれほどの魔力が必要か?
途方も無い。
ジュデッカがワンオフ魔術で学院を凍らせただけでも体力を根こそぎ持って行かれたのだ。
因果律の逆転でこれを「無かったこと」にするのは、
「積み木のお城を壊すため大地震を意図的に起こす」
と表現できるくらい意味不明な対処ではある。
「ミズキでなければ」
と注釈は付くが。
体力で魔力を練り、魔力で治癒を発動し、治癒で体力を取り戻す。
その第一種永久機関が恒常的に行なわれているミズキのキャパシティは既に人外の領域に突入しており、宮廷魔術師の数十万倍とも言える度量を得ている。
ソレに比べれば運命分解に消費する魔力はマグマに水滴を垂らす様な物だ。
「全力全開で同風前塵に魔力を込めればどうなるか?」
そんな命題もある。
ちなみに、とうにミズキの認識を超えている。
世界その物を塵へと還す。
あるいは魔王と呼ばれるかも知れない存在であった。
「一応麦の国に報告して良いですか」
「ご勝手に」
治癒魔術の根幹については話していないので、根本的には鬼札とは呼べない。
「ミズキちゃん!」
「ミズキ!」
「ミズキ!」
「騒がしいのが来たなぁ」
女三人寄れば姦しいと云う。
かしまし娘の由来だ。
「セロリと」
「カノンと」
「わたくしと」
「何か?」
「「「デートしましょう!」」」
「頭の悪い御意見どうも」
淡々と茶を飲む。
「本当にモテモテですね。先輩は」
ジュデッカとしては苦笑せざるを得ない。
実質的には当人さえもヒロインの一人なのだが。
「優しい先輩」
「なんだ?」
「大好き」
チュッと頬にキスをする。
「おお」
とミズキ。
「「「フシャーッ!」」」
と猫の様に威嚇するかしまし娘。
学院祭が終わって落ち着いた状況でも、乙女心は凍らないようだ。
完結したわけじゃありませんが此処で一旦休止させて貰います。
第三話『この世に神の居る限り』編は何時になるのかちょっと分かりません。
ここまで読んでくださった皆様方には心からの感謝を。




