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第110話 乙女の恋慕は凍らない26


「さすがセロリだな」


 水出し紅茶を飲みながら、その作り手をミズキは絶賛する。


 薫り高く美味しい。


 茶道楽ではないが心のこもった美味しさだ。


「さて」


 とギフト。


 朱色の瞳が見透かす様に光る。


「何をしました?」


「何がだ」


 場所は寮部屋のリビング。


 時間は深夜。


 セロリとジュデッカは寝室でベッドに寝転んでおり、眠れないミズキが茶を飲もうとキッチンに出向くと、同じく寝ていなかったギフトがリビングの席に座っていた。


 二人して夜のお茶会だ。


「主語を付けて話せ」


「魔人」


 端的にして要を極める。


「カノンが対峙したアレか」


「ええ、凄まじい戦いだったと聞いています」


「カノンの戦力は戦術どころじゃないからな」


 戦略……あるいは政略レベルだ。


 他人事の様に言っているミズキも大概だが。


「カノン一人で魔人と戦えるとでも?」


「実際に戦っただろ」


 事実、


『カノンは一人で魔人と戦ってコレを討った』


 と周りは畏敬している。


「防御はどうするのです?」


「自己固定も相対固定もカノンは使えるぞ?」


「術式拡散もですね」


「然りだ」


 茶を飲む。


「けれども魔人の波状攻撃を防御したにしては街の被害が少なすぎます」


「運が良かったな」


「ここまで論じて惚ける気ですか?」


「何がよ」


「あなたも立ち合ったでしょうに」


「頭大丈夫か?」


 不敬罪まっしぐら。


 本当に、


「心配だ」


 とミズキの瞳は言っていた。


 理屈としてはギフトの論にも一定の理は在る。


 そもそも破滅的な魔術を使い人類と文明に喧嘩を売る魔人は、どうしても社会に爪痕を残す。


 解決策は、


「魔術師を宛がって処理」


 ソレに尽きるのだ。


 結果として最小限で街の被害が収まるには、カノンと魔人の一対一では起こりえない。


 魔人だけでなくカノンの攻撃魔術も洒落にならならないレベルだ。


 軍隊を一発で半壊せしめる下級魔術。


 そのカノンが中級……あるいは上級の魔術を使えばどうなるか。


 結果は論じるまでもない。


「攻撃をカノンが担当するとして、他に防御要員が要りますよね」


「そんな話は聞いてないがな」


 ついでに目撃者もいない。


 証言も証拠もない。


 単なるギフトの状況把握だが、


「論理の飛躍」


 という点に於いて、ギフトの能力は突出している。


「カノンや魔人レベルの魔術行使を可能とし……カノンをサポートできる防御魔術の運用……」


 ミズキは淡々と茶を飲んだ。


「ミズキ以外に居ないでしょう?」


「妄想も大概にしろ」


 サクリと抜かしてのける。


 多少なりとも煩わしい。


「へっぽこのままでいたい」


 というミズキの願望に、ギフトの能力はあまり面白くない。


「ミラー砦を攻略した戦術級魔術師が言いますか」


「アレは喧嘩を売られたから買ったまでだ」


「それで鉄壁砦を単独短時間で消滅ですか?」


「海の国にも都合が良いだろ?」


 自嘲。


「お姫様としても」


「ギフトは別にどうなろうと知りませんけどね」


 ギフトの父親……国王は専守防衛主義であるため、在る意味で、


「胃痛」


 の原因ではあった。


「本当に……」


 茶を飲んでギフトが言う。


「ミズキをエージェントとして送り込めば海の国が大陸を征服できるんじゃ在りませんか……?」


「税金以上に働かせようってのか?」


 むしろ軍学校としては血税に養われている側だが、それはそれとしてミズキは自分の威力を容易に評価しようとしない。


「難儀なお人ですこと」


 面の皮の厚さは折り紙付きだ。


「気が向いたらな」


 それだけをミズキは言った。


 気配は察している。


 リビングから寝室への扉。


 そを隔てて聞き耳を立てている存在にミズキは気付いていた。


「耳汚しだな」


 呟く。


「?」


 ギフトの方は気付いていないらしい。


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