第105話 乙女の恋慕は凍らない21
そんなわけでこんなわけ。
ミズキとジュデッカは男子とともに闘技場の一つを借りた。
「…………」
黙っているミズキは治癒要員だ。
こういうところでは役に立つ。
「…………」
「…………」
ジュデッカと男子は相対していた。
「なぁ?」
漸う口を開くミズキ。
まさに心底から深刻な声色を出しており、この状況の不毛さを如実に表わしているのだが、まぁぶっちゃけ平常運転。
面倒事は大嫌い。
「本当にやるのか?」
今更な気もしないではない。
「します」
「するぞ」
「でっか」
最近とみに精神的疲労がミズキを襲う。
「ま、いいか」
死んだところで何がどうのでもない。
「じゃあ始め」
宣言……というには威力が足りない。
テンション低めの開始の合図だったので、
「…………」
「…………」
ジュデッカと男子は少し開始から行動まで間があった。
そこら辺についていけるかがミズキへの理解の第一歩だ。
むろんそんなミズキ検定を修得しようとも二人揃って思っていないのだろうから、そこは考えないことにして。
「――燃焼――」
男子が宣言する。
炎の濁流。
威力はそこそこ。
魔力の運用。
消費と温存。
その戦略に於いて試し見の攻撃は相手の出方を窺える。
「――水流――」
水流が生まれ炎を消し去る。
水もまた蒸発して霧になった。
「――太陽――」
霧を燃やしながら炎の弾丸がジュデッカを襲う。
火属性の中級魔術。
威力はそこそこ。
「――自己固定――」
防御の魔術で受け止める。
続けざまに宣言。
謳歌は終えているのだろう。
「――真珠散弾――」
氷の散弾をジュデッカは撃ち込んだ。
氷の属性。
水と土の複合属性だ。
高等技術の一角であり、時に暴威的な力を発する。
「くっ」
思案。
演算。
「――燃焼――」
魔力を込めたのだろう。
先よりも強めの炎の濁流が生まれる。
真珠散弾を飲み込んで蒸発。
そのまま襲いかかる。
当人とミズキにだけ聞こえる宣言。
「――疑似変化――」
錬金術の基礎。
火の下級魔術。
疑似変化。
質量を武器に変化させて武装する魔術。
ただし一定時間に限り、時刻が過ぎれば元の質量に戻るという制約があった。
炎の濁流を防御でいなしたジュデッカに男子生徒は襲いかかる。
手にはモーニングスター。
疑似変化のソレだ。
「…………」
スッと手を挙げて受け止める。
「っ!?」
困惑する男子。
さもあらん。
ミズキも承知していた。
相対固定。
自己固定の上位互換。
相対座標で力場を張るため、防御しながら動けるという魔術だ。
そして触れたモーニングスターを触って、
「――他己固定――」
土属性の魔術……他己固定を宣言する。
絶対座標で空間に縫い止める魔術。
言ってしまえば金縛りだ。
ピタリと止まる男子の動き。
さらにジュデッカは容赦しない。
「――凍結――」
氷属性の魔術。
触れた相手を凍らせる魔術だ。
ソレを男子の足下に触れて宣言する。
パキパキと少しずつ男子の体が凍っていく。
「趣味の悪い」
とは棚上げ的なミズキの談。
「ぐ……! が……! こんな小娘に……!」
憎しみの瞳で爛々と睨みやる男子生徒。
ナンパからコッチ侮りも甚だしかったが、にしても後れを取るのはプライドに差し障るようだ。
ギョロリと憎悪に目玉が動く。
「殺す! 殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
殺意と憎悪の二重奏。
それが呼び水となった。
どんな関数に何の変数が混じったか。
「が……あああああああああああああっ」
蒼穹に向かって吠える。
変質が……始まった。




