第102話 乙女の恋慕は凍らない18
「わんわん」
鳴いてベッドに潜るギフト。
「あー」
唸るミズキ。
食事。
喫茶。
それから、
「入ってきたら抹殺な」
と忠告して入浴。
ここらへんの線引きに関しては妥協の余地のないミズキではあって、ことさら禁欲では無いにしても乙女の取り扱いにも考えるところがある模様。
で、サッパリとして後は寝るだけとなった。
月夜の散歩はしてみたくもあるが、
「どうせテロリズムが襲ってくるだろう」
とのことで諦める。
あまり空気を読まない身としては、自身より面倒を優先するのも珍しい。
「わん」
ギフトは御機嫌だ。
魔術陣の魔力をなくして照明を落とす。
真っ暗闇で月光が窓から差し込むのみ。
朱色の瞳は妖しく輝いていた。
ベッドは二つ。
一つはセロリ。
一つはミズキとギフト。
添い寝だ。
「今日は楽しかったですね」
「お前がそうならよかったよ」
不遜。
「ミズキは楽しくありませんでした?」
「デートできるのは男冥利に尽きるな」
「わん」
ギュッと抱きしめてくる。
ミズキはされるがままだ。
「お忍びデート……ドキドキしました」
「ま、あまり体験も出来はせんだろうがな」
王族の身だ。
頭を下げられる。
畏れ入られる。
慇懃に応対される。
それが普通で日常。
ただ生まれた時間と座標が違うだけで、どうしてこうも人間は不平等なのか。
「ギフトは可愛くないです?」
「可愛いぞ?」
躊躇ない言葉。
だからこそ信に足る。
本当に、
「事実だ」
と如実に語れるミズキの論評だった。
「えへへ」
夜闇の中でギフトは笑った。
「好き?」
「好意的ではある」
「かしまし娘さんたちも可愛いですしね」
「だな」
そこを否定しない辺りがミズキクオリティ。
「側室で良いですから。ギフトは」
「その前提がどうよ?」
ミズキには其処が理解できない。
在る意味で未熟なのだろう。
「ギフトは……」
ギュッと。
「普通の女の子に憧れがあるんです」
普通なら女の子はお姫様に憧れがあるはずだ。
恵まれた者の傲慢。
あるいはルサンチマンの逆説か。
「面倒な話だな」
「わかってます」
血税で飯を食べていることは理解しているらしい。
「そんなミズキだから……」
「だから」
「単なる女の子として……ミズキが好きです」
「よくもまぁ」
「夜逃げするときは是非一声掛けてください」
「そうしよう」
サックリ。
「政略結婚はしないのか?」
「ミズキが宮廷魔術師になればしてもいいですけど」
「……そうなるか」
言葉の間が少し怪しかった。
「あまり褒められた人間でもないんだがなぁ」
「それはミズキの自己評価です」
「…………」
「乙女には乙女のフィルターのかかった評価がありますよ」
「か」
「それが解せないからミズキは振り回されるんです」
「知ってはいるつもりだが」
「識ってはいないということですね」
「さいか」
中々辛辣な他己評価だった。
「誰も彼も可愛すぎです」
「恋する乙女はそんなもんだろ」
「ミズキも?」
「恋愛ね……」
あまり恭しく頭を下げる対象でもない。
そうであるならとっくにセロリと一線を超えている。
見た目ハーレムだが、それは最近の出来事であって、元々ミズキに優しくしてくれていたのはセロリ一人だったのだから。
「へっぽこ」
本当にソレだけ。
ミズキの魔術の通念だ。




