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4 改めての、覚悟


 せっかくクリスに会えたので、この機会を逃したくない。私の左手にはまっているこのもうひとつの厄介な問題について聞いておきたかった。

「あの、アルフレートのお師匠さん、この指輪って外せないでしょうか……?」

「ああ、隷属の指輪か」

 ふむ、と言ってクリスは私の左手に手をかざす。先程とはまた違う指輪から広がるぞわりとした感覚に身震いしたけれど、あの奴隷商人のときと違って嫌な感じはしない。あれは害意の有無も要因だったのかもしれないな。

「……今のこの姿なら、なんとかできるだろう」

 クリスが口のなかで何かを呟くと、左手の中指にはまった隷属の指輪はパキッと音をたててあっけなく割れ、そのまま光に溶けるように崩れてしまった。

「……とれた!!」

 身軽になった中指は、そこだけ少し細く日焼けをしていない。もしかしたらこのまま本当に外すことができないのではと思っていたので、ほっと胸を撫で下ろした。

「完結した契約だと解除が難しい。半端な状態だったのは運が良かったな」

「ありがとうございます……!」

 さすがはこの世界屈指の魔導師だ。これで心配がまたひとつ減った。

「……少し眠る。アル、そっちの体はちゃんと連れてけよ」

「わかってる。」

 それだけ言うと、クリスの思念体はかき消えた。横たわる体の上に乗っていたリスのような動物も眠るように丸くなっている。アルフレートはクリスの仮の体をそっと抱き上げて撫でると、マントのポケットに入れた。

「師匠は、俺の魔力が暴走したせいで、こうなった。俺が、未熟だったから……

 指輪を見つけたとき師匠は召喚に反対したけど……師匠が元に戻るためなら、俺はなんだってするって、そう思って……

 ルカ、俺のわがままでこの世界に連れてきて、本当にごめん。」

 泣きそうに顔を歪ませたアルフレートに、瑠果ちゃんは私のときと同じようにそっと優しく手を握った。

「確かに、突然知らない世界に来て、すごく心細くて、怒ったりもしたけど……

 今はこの世界で皆に会えて、関わることができて良かったと思ってるよ。

 ねぇアル、お師匠様、絶対に助けようね」

 そう力づける瑠果ちゃんは、やはりヒロイン役に相応しいんだな、と感じる。アルフレートも心を決めたように頷いた。



 村を立つ前にもうひとつ、重要なことを話し合いたくて、隙を狙って瑠果ちゃんと相談をした。物語通りなら恐らくこれから闇の神と戦うかもしれないのに、皆に事情を話さないというのは厳しいのではないか、ということについて。強大な敵と対峙するのに、なんの準備もなしに挑むのはかなり危険だ。かといって、事情を説明することがこの世界へどのような影響をもたらすかは結局わかっていない。

「ここまでで何かイベントらしきものは起きた?」

「覚えがあるものは合ったけど、時期もずれているし、細かいところが違ったなあ。

 悠希さんは、どうだった?」

「完全に同じなのはないな。テオドールたちのお父さんについては結末も違うし……」

 こんな街や景色があったなぁとかそういう世界の類似はあったけど、私の方でゲーム内で見たことのあるイベントに似たものは、あのお祭りでのお父さんの件だけだ。

 とりあえず、万が一のことを考えて、皆に伝えるのは中央に近づいてからにしようということになった。どのように伝えるかは、追々考える。


 中央神殿に向かって進路をとる。再びの皆との旅はやっぱり賑やかで楽しい。それに、人数も増えるといろいろ楽になる。ときおり出会う穢れを祓いつつ、少しずつ南に進んでいた。大陸全体の穢れが減ったからか、頻度も心なしか減ってきたような気がする。魔法は相変わらず使えなかったけれど、幸いなことに浄化の力はちゃんと使えていた。これは魔法とはまた違った力だからかもしれない。

 魔法が使えないなら尚更しっかりやっておきたくて、いつもの弓練習にも熱が入った。あの山での事件があってからしばらくは集中できずにいたけれど、最近はまたちゃんと的中するようになってきた。

「……迷いが減った気がするな」

「そう、かな?」

 後ろで弓を引くのを見ていたテオドールから声がかかる。褒め言葉……ととっておこう。客観的にみても調子を取り戻せてきているなら良いことだ。

「この前アルフレートのお師匠さんに見てもらって、もしこのまま魔法が使えなかったとしても、自分のできる範囲でやれることをやろうって決めたんだ」

 だからまずは、弓から。たとえ実戦では役に立てなくても、精神を鍛えるものだとも思うから。私の言葉にテオドールはそうか、と言って笑った。

「……まあ俺は、魔法が使えない方が無茶しないでいいと思っていたくらいだけどな」

「えっ、そんなことは……」

 思わず反論してしまった私に、テオドールは大きくため息をつく。

「魔法で防げるからって攻撃を避けようとしなかったり、炎に飛び込んだりするようなやつが言えるのか?」

 おう……ごもっとも……。呆れた様子のテオドールに返す言葉もない。魔法のおかげで万能感を持っていたというか、調子に乗っていたところはあるので、とても耳が痛い。

「今の自分の状況がわかってるなら、無理しようとするなよ」

「うん。皆の足を引っ張りたくはないしね」

 今の私にできることは少ない。ならばせめて、迷惑にならないようにしたかった。



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