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1 二人の故郷


 テオドールたちの故郷の村は乾燥した地帯で砂丘やオアシスもあり、どこかアラビアンな印象だ。村は泥のレンガで作られた家がたくさん並んでいた。

「わあ!テオドールさま」

「バルトルト様も!」

「よお、久しぶりだな」

「皆変わりないですか?」

村に入ると、気づいた人々がすぐに駆け寄ってきてちょっとした人垣になった。皆口々に声をかけ、二人の帰りを喜んでいる。「さま」で呼ばれているのが新鮮だけど、そうだよね。二人とも族長の息子だからいずれは村をまとめる立場だ。

 村の中は灯りや旗で飾りつけをしているところのようだ。……もしかして、祭の準備だろうか?

「今年はもう祭の準備をしてるのか」

「いつもよりちょっと早いですね?」

「エーリカさまの星よみで」

「ことしは早めにやろうって!」

 理由は子供たちが身振り手振りを交えてすぐに教えてくれる。テオドールとバルトルトの故郷でのイベントは、お祭の時に起こるはずだった。二手に分かれたからゲームで訪れる時期とはずれているはずなのに……単なる偶然か、それとも。

「テオ、バルト、おかえりなさい」

 人垣の外から、柔らかな声が響く。村の人々はその声の主のために道を譲った。

 柔らかなオレンジ寄りの金髪をサイドでふんわりと三つ編みにして、優しそうな笑みの女の人。つけている装飾で偉い立場の人間だとわかる。ゲームのグラフィックでも立ち絵はあったのですぐにわかった。二人のお母さんだ。

「母上。ただいま戻りました」

「なかなか帰れず申し訳ありません」

 テオドールとバルトルトに良く似た榛色の瞳が嬉しそうにほころんだ。

「まだ旅の途中なのでしょう? それでも顔が見られて嬉しいわ」

 ふんわりとした笑い方もそうだけど、髪も瞳の色も、バルトルトはお母さん譲りだというのがよくわかる。

「そちらのお嬢さんたちは……二人のお嫁さんかしら?」

 およめさん。お嫁さん………?

「いいやいやち違います私は……」

 ぶんぶんと手を振って否定する。思い切り噛んだし、いきなり何を言い出すんだこのひとは?!?!?!

 脳が言葉の意味を理解した瞬間、魔力の光がぽんと体から飛び出してお母さんに吸い込まれていく。あああ、またやってしまった……最近感情の揺れで魔力制御が甘くなりがちだ。あらなるほどねと笑うお母さんは楽しそうだ。やっぱり感情も伝播してるんですか?何がなるほどなんですか!!

 スピカは、首をかしげながら苦笑しているバルトルトを見上げていた。あれ、でも、少しはにかんだような嬉しそうな顔だ。そうかそうか、そうなんだね。

「母上」

「そうね、ごめんなさい、つい」

 ため息をついたテオドールがこちらへ向き直って言う。

「悪いな、人をからかって遊ぶのが好きなんだよ」

 驚きと、『お嫁さん』と言われたのが照れくさくもちょっと……悪い気がしなかったのと──それを知られるのも恥ずかしくて、こくこくと頷いた。

「その装身具は、この方が『神の御使い』様なのね」

「ああ、ユウキだ。こっちは保護しているスピカ。」

 頷いたお母さんは、堂々とした所作で最上の礼をとる。

「『神の御使い』様、そして小さなお嬢さんも、ようこそいらっしゃいました。

 このような辺境の地にお立ち寄りいただき感謝いたします。

 私は一族の長ウルリヒの妻で、テオドールとバルトルトの母、エーリカと申します。

 まずは旅の疲れを癒してくださいね」

「あ、ありがとうございます」

 先ほどの楽しそうな笑みとはまた違う、優美な微笑みにみとれてしまう。『神の御使い』として迎えられるのは大仰な気がしてむずがゆかった。

 今は一年で一番大きいお祭の時期で、ちょうど今夜から数日間行われるところらしい。夕方、私もスピカもせっかくなので村の民族衣装を着せてもらった。ひらひらとした薄布を重ねて、金属が連なるチェーンのような装飾を巻いて、動く度にしゃらしゃらと音が鳴るのが可愛い。肌には植物の粉の塗料で模様も描いてもらった。なんだかゲームイベントであった婚礼の装いみたいだ。

 うきうきと外に出ると、テオドールとバルトルトもお祭用の晴れ着を身に付けて立っていた。ああ、二人とも、すごく似合っていて素敵だ。思わずぼーっと眺めてしまった。こちらも、スチルで見たことがあるあのアラビアンな服に似ている。まさかこの目で民族衣装のテオドールとバルトルトが見られるとは……うう、是非構造とか詳しく知りたい……あとで可能な限り図解めもしよ……

 走って駆け寄ろうとしたスピカが裾を踏んで転びそうになったので、抱き止めたバルトルトは危ないからとそのまま抱えあげて歩く。スピカは恥ずかしそうだけど嬉しそうだ。そういうのが自然に出来る、そんなところだぞバルトルト!!


 日が沈むと、村の中央に作られた舞台で踊ったり、たくさんのご馳走を食べたりお酒を飲んだり、楽しそうな音楽も流れている。

 でも私は、この村にきてからずっと気になっていた。祭が始まってからだんだんに濃くなってきた穢れの気配。ざわつく感覚を頼りにやってきたのは村の端だ。崖のような岩山に人工的な大きな石扉がある。穢れはここからだ。

 物語の通りなら、ここにいるのは──

「おい、こんなところで何してる?」

 後ろから突然かけられた声に、悲鳴が出そうになる。……この声はテオドールだ。

「ひとりで動くなって言っただろ」

「ごめんなさい。その……穢れの気配がしたから、たどってきたの」

 テオドールはため息をついて、くしゃくしゃっと頭をかいた。

「……やっぱりわかるか。ちょうどいい、お前も連れて行こうと思ってたんだ」

 大きな石の扉にテオドールが手をかざすと──魔力を通すと、横開きにごごこと大岩が開いていく。扉の奥は洞窟だ。

「こっちだ」

 湿気った岩壁に手をあてながらテオドールの後ろについて進んでいく。洞窟の通路内には発光する苔があるみたいで、ぼんやりと明るかった。テオドールが足を止めたので行き止まりかと思ったけれど、どうやらここにも大きな岩扉がある。穢れの気配はさらに濃くなってきていた。

 入り口と同じようにテオドールが手をかざし、重苦しい音をたてて扉が動く。

「よお、テオじゃないか!」

 その先にいたのは、体格はいいがやつれた男の人だ。眼光が鋭くややたれ目で、髪はカーキブラウン。瞳の色は違うけれど、テオドールが歳をとったらこんな感じなんだろうなとそんな印象を受けるその人は、テオドールとバルトルトのお父さんだ。

 穢れの気配は、この人からもれ出している。

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