もう一人のメンバー
現状は、
「なんで私誘われなかったんだろー」
「怪奇に突っ走って、蹴散らしちゃうからだろ」
「夏希だっておんなじじゃん!」
「夏希は言えば聞く。優華は言ってもあんまり聞かない。以上。証明終了。QED」
「ひどいっ」
優輝と優華の二人が円卓を囲んでいた。
優輝の方は学校の課題か、ノートをペンでつついている。
優華の方はタブレットで怪奇のニュースを漁っている。
ノリさんを含めた本部の面々は、夏希・正美・正哉の育成という名目で外へ出ている。監視兼補助がノリさんと麗奈というわけだ。
普段麗奈と行動を共にしている優華は、ノリさんに「優華と優輝は留守番だ」と言われたことに対して不満を垂れていた。
なぜ留守番かというと、先ほど二人が話していた通りだ。ならば、優輝も留守番と言い渡されたか。
優華が余計なことをしないように?
快活な彼女の行動が予測できないかつ、何をするかわかない以上そういう理由もあるとは思うが、彼女も彼女で高校生の身だ。至らないところは優華の自覚するところではあるが、それと同じくらい教養は行き届いてる自覚もある。優輝もノリさんも優華に限らず、本部のメンバーは学生の平均水準に行き届いているのは認めているため、そういう理由ではない。
否、一人を除いて、か。
優輝が本部へ留守番を言い渡された理由は、(優華が余計なことをしないように)ではなく、(本部のもう一人のメンバーが余計なことをしないように)だ。
ここ数日、本部の集まりに参加せず、円卓に空席を残していた男。
「あァ? テメェらだけか。ノリはどうした」
長身の男が不愛想を振りまいて会議室へと入ってきた。
短い薄緑の髪を搔き、目つきの悪さを主張する三白眼で席に座る二人を睨むのは、怪奇討伐対策本部の8人目。本豪風真だ。
加えてこの男は、ノリさんと優輝に次ぐ本部初期メンバーであり、問題児でもある。
「あ、風真ひさしぶりー」
「しばらく見なかったが、なにしてたんだ?」
「テメェらがちんたら野郎どもを殺してる時間に、俺は数十倍野郎どもをぶっ殺してたんだ」
優華が控えめに風真へと手を振り、優輝がノートから目を離さずに風真に話しかける。
そして風真の反応に、優輝は眼を瞠った。
「どうした。ずいぶん上機嫌だな」
普段は「うるせぇ」「黙れ」とシャットアウト。取り付く島もない風真の反応に、優輝は驚いたのだ。心なしか優華は嬉しそうにしている。
驚いている優輝の言葉に、風真はまたも「あー」と前置きして会話に応じた。
「テメェらとは違って、何日も外に駆り出されてたからな。しばらくここにゃ顔出さねぇ」
いつも来てないじゃんという指摘もあるようだが、その言葉を聞いた優輝と優華は違う意味で顔を見合わせた。
「風真」
「あぁ?」
「ノリさんが風真戻ってきたらでかい任務があるから、って言ってたぞ」
「殺すか」
優輝の言葉を聞いて、声のトーンを三段階ほど落として、風真は指を鳴らした。
「ちょちょちょっと待ったっ! どこ行くの?」
「殺す」
「場所、私たちですら聞いてないけど」
「あァ?」
今にも走り出しそうな風真に向かって、優華が静止の声を呼びかける。
その声に向かって風真は「うるせぇよ」と悪態をつき、
「どうせあのうるせぇ場所にいんだろ」
「え?」
風真にはなにが聞こえるというのか。
風真には、雷の音が聞こえていた。
晴天の空に走る雷の音が。
会議室に風が吹いた。
優輝と優華を置き去りにして。
数十分後に、風真の怒号と共にノリさんが笑いながら本部に戻ってきた。