溺愛
それから、どこか優しげな表情を見せる。
「ルルノさんが泣いたのは、ルルノさんを婀瓏孅さんが許したからです」
何気ない喋り方であったが、何故か、それは褒めている様にも聞こえた。
しかし、当人には思い当たる節がない。
「許す? 特に怒ること、禁止することはしていないはずよ」
言いながら首を傾げる。
「そうですね。婀瓏孅さんは、ルルノさんを溺愛していますし」
言われ、心外だなという風に婀瓏孅は眉間に皺を作った。果たしてそうなのだろうか。自問自答してみるが、判らない。溺愛された経験も、した経験も、婀瓏孅にはなかったのである。
「そうかしら。私が人の子に、そんなに入れ込んで見えるというの」
自分がどう見えているのか興味が湧いた。しかし、そこまで熱を傾けては問題に思える。
「えぇ、それはもう。髪を梳かし一緒に眠り、それはもう目に入れても痛くないのではないかと」
「図讖戯、話を戻すわ」
少し照れて赤らんだ顔で、婀瓏孅は話を切った。自分で聞いた話だが、そこまで言われると、気恥ずかしさが強かったのである。
まさか自分が、それも拾って十数日の人間の子に心を奪われるなど。そう思えば、悔しい気さえした。
「これは失礼しました」
そんな気持ちを知っているのだろう、普段通りの笑みは、どこか悪戯な香りがしていた。
それから表情を整えて、お互いに視線を絡ませる。
「許しという言葉が少し誤解を招きましたね。なんと言いましょうか、受け容れた、とすれば良いでしょうか」
「あぁ、そういうこと」
そう応じてから、別に最初にこの瓏々邸に来た時から受け容れているつもりだったのだけれど、と婀瓏孅は思った。
「ルルノさんにとっては、ここでの生活は料理されるまでのものだろうという認識でした。ですがそうではないと、あなたが昨日言ったのでしょう」
受け取った言葉を口に含み、咀嚼をして嚥下する。
「よく知ってるわね、まったく」
訊ねてみれば、えぇと返事が返る。
「喰べられることが当然とも思える状況で、それでも生かされたので、初めてしっかりと理解することができたのでしょうね」
ふぅんと、婀瓏孅は頷いてみせる。でもそれだというのなら、考えすぎるのではないかと思った。
「元々、誰も否定なんてしていないのに」
少し拗ねた。
「伝わるまでには時間が掛かるものなのですよ」
そう肩を叩かれると、大きく深呼吸して心を整える。
「仕方ないでしょ。面白くないのよ」
頭の中がもやもやとして、婀瓏孅は苛立ちが抜けにくいのを感じた。そして、ふとこれが溺愛なのかと思うと、また少し顔を赤らめた。
「なかなか伝わらないとしても、伝わるまであなたが愛してあげたのですから、良しとしてあげてください」
追い打ちであった。
お互いじっと見つめ合い、笑う。
「まぁいいわ。それで、あれが本来のルルノ、ということになるのね」
それに図讖戯は頷く。
「えぇ。ここに来る以前、村が焼ける以前の彼女の姿です」
慈しむ様に、ここにはいない少女の姿を幻視して図讖戯は話す。
あれが本来の、人として生きていたルルノ。そう思うと、今までのルルノもあれはあれで可愛かったが、本来のルルノは果たしてどうなのか、と興味が湧いてくる。
婀瓏孅が微笑みながら考えていると、図讖戯が声を掛けてきた。
「あぁ、そう。それから、伝言を一つ預かっています」
「伝言?」
図讖戯を使って伝言を寄越すというのは、急ぎなのだろうか。




