穏やかに
そのまま一刻以上泣き続けると、泣き疲れてルルノは眠ってしまった。それを見て、婀瓏孅はふぅと息を吐いて身を起こそうとする。右腕の傷は、ルルノが泣き付いている時にそっと皐詠舞祷が応急処置をしてくれていた。
「いたたた、ちょっと無理し過ぎたかもしれないわね」
起き上がる時に右腕に力を入れてしまい痛みが走る。
立ち上がった婀瓏孅を、皐詠舞祷は澄んだ目でじっと見詰める。
「良く我慢なさったと思います」
心底感服した様にお辞儀をする。そんな皐詠舞祷の行動も満更ではない様で、嬉しそうににこにこと微笑む。
「ふふ。そう褒めてくれるのは嬉しいわね。ところで、心配そうに戸の外に張り付いているお馬鹿さんたちは、いつまでそこにいる気なのかしら?」
その言葉に、どたばたと外にいる四人が去っていく。全員が聞き耳を立てていたようだった。
「あら、何も逃げなくても良いのに」
婀瓏孅は普段通りに、くすくすと笑う。それは清々しい笑顔だった。それに釣られて、皐詠舞祷もくすくすと笑う。
笑いが収まると、皐詠舞祷は婀瓏孅にルルノをどうするか訊ねた。
「そうね。このまま寝かせておくのも可哀想だし、起きるかどうかも判らないから、浴場で体を洗ってから着替えさせようかしら」
そう言って、血まみれで眠る少女を見下ろす。
「判りました。それは私がやりますね」
そう言われ、最初は自分がやろうかとも思ったが、婀瓏孅は自分の右腕を見てそれは諦めた。ルルノを抱え上げたりしたら、血が噴き出しそうだった。
「えぇ、お願い。卦籤や金釘流を使っても良いわよ」
それに頷くと、皐詠舞祷はルルノを抱えて部屋を後にした。一人になって床を見ると、自身の血の池ができていた。これは掃除を考えると目を覆いたくなる惨状だと思い、またくすくすと笑う。
少し笑ってから、これからの自分を思う。少し気が重い。咄嗟に動いた右腕は、婀瓏孅の利き腕なのだ。調薬もそうだが、その他のことでも色々と苦労しそうだ。特に、好きな湯治の際にさぞかし苦痛だろうと思うと、少しばかり滅入りそうだった。
婀瓏孅は、それこそ塗ればたちどころに傷を消してしまうような強力な薬も作れる。けれど、婀瓏孅はそういう薬に頼ることを好まないので、滅多に調薬することはない。曰く、自然の手助けをする程度の薬が適当、とのことだった。
「さてと。こんな体で、断食行。ふふ、少し挫けそう」
面白そうにそんなことを口にして、婀瓏孅は部屋を出て調薬をしにいく。まずはそう、ルルノを抱き締める腕を治す為に。




