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花々咲乱(かかしょうらん)  作者: 相上いろは
第11話~薄ら氷の溶ける様に~
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衝動

 やがてこのことについてを、弟子たちは小声で話し合った。恐らくは、ルルノがいるから断食に影響が出ているのではないかという意見がセクタから出ると、全員はそうなのかもしれないと頷きあった。そして、心配はしながらも全員は食事を開始する。


 食事が終わると、全員はどこかそわそわとしながら、各自自分のことをしようと部屋を去っていった。そしてルルノも、卦籤と金釘流に連れられて部屋を出て行った。

 二人に連れられたルルノは、今日もまた掃除をしようと思っていたのだが、強引に金釘流の部屋に入れられると三人でお茶を飲むことになった。

 金釘流の部屋は、様々な読み物やどこのものか判らない郷土品、そして画材が色々と置いてあった。それらが目新しくって、ルルノはそれらをじっと眺めていた。

 と、部屋の中央に、様々な菓子が雑に入れられた大きな盆がことりと置かれる。煎餅に饅頭に餅と多種多様である。ちなみにこれらは、二人が旅の道中で買ってきた物なのだという。空腹でありながら、それでもお菓子は食べずに持ち帰ってきたのである。

 お茶を飲みながら、二人はルルノに、旅であったことを土産話にして色々と聞かせた。ただ、そのほとんどが変わった食べ物、美味しい菓子など、食に関することであった。二人が不真面目に旅をしているからというわけではなく、ルルノには薬以外のことのほうが面白いのではないだろうか、という気遣いからである。


 時折混ざる変わった建物の話や、温泉の話。そして、自分以外の妖怪に襲われた話。それらを卦籤が、多少大袈裟に語ったり、時に勢い良く、かと思えば勿体ぶって、土産話は一つの英雄譚の様に派手なものに変わっていた。娯楽らしい娯楽というものに触れていなかったルルノは、目をきらきらと輝かせてその話に耳を傾けていた。

 この語りの中で本来なら出ないはずもない人肉に関する出来事は、金釘流が絶対にするなと卦籤にしっかりと釘を刺して置いたので一切なく、三人は明るく、そして和やかな時間を共有して過ごすことができた。


 時同じくして、婀瓏孅は自室で一人、自身の衝動と理性の葛藤に苦しんでいた。

 長い時を生きた婀瓏孅でも、目の前に人間がありながらそれを食べてはいけないと自制した経験はほとんどない。またあったとしても、それは誰かに止められたからか、無用な危険を避けるという計算からのものであって、自分から食べてはいけないと思ったことは初めてのことであった。


「きっつい、わね。これ」


 一度気付いてしまえば、衝動は湧き上がってくるばかり。抑えつければ抑えつける程に、それでも食べたらどれ程甘美だろうと悪い虫が囁く。耐えることが苦痛なら、それを止めることはそれだけで快楽になる。欲求を抑えることが難しい程、一度でも屈すれば後は歯止めなく、だらだらと堕落してしまいそうになる。


「頭が、どうにかなりそう」


 片手で頭を押さえ、乱れた服をそのままに、床をごろりごろりと転がっていた。つい先程までは座っていたのだが、とても座っていられなくなり、椅子から落ちる様に床に寝転び、ただひたすら衝動に耐え続けていた。胸や頭が痛い程に激しい衝動。そしてそんな衝動に真っ向から立ち向かうには、まだ婀瓏孅は葛藤の経験が少な過ぎた。

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