空腹二人
「判った、なんか食い物作ってやるから待ってろ。それと、あの人間の子は食うな。怒られる」
言いながら、なんとなく外に出てルルノを部屋に逃がせて良かったと心底思った。ルルノが殺されていたらと考えると、冷たい水が背中に落ちた様な感覚がして、セクタはぶるっと震えてしまった。
「え? 怒られるって、誰に?」
卦籤が不思議そうに首を傾げた。同じく不思議そうな顔の金釘流も、くるりと上体を起こしてセクタを見上げる。そんな二人を見て、自分が感じた冷たいものを少しでも感じさせてやりたいと思い、二人が精々驚く様に言ってやろうと決めた。
「まず師匠が怒るだろ。あと今の感じだと皐詠舞祷と羚馳さんも怒りそうだな。あ、そうか。玉蟾様も怒るかな。いや、怒るのかなぁ。玉蟾様はわからねぇなぁ」
最初はぼうっと聞いていた二人だが、しばらくして誰が怒るのかを理解すると、さぁっと血の気が引いていった。
「え、ちょ、ちょっと待って! なんでお師様や姉さんが怒るの!?」
驚愕を顔に貼り付けた卦籤が叫ぶ。
「というより、玉蟾様の名前が出てくるの! どういう経緯で此処に居る子なの!?」
卦籤同様に顔を強張らせた金釘流が続く。狙い通り驚いた二人を見て、セクタは小さくくすっと笑った。
笑うセクタと見て、二人はセクタの嘘なのかと思った。だが、セクタに虚実を問うても意地悪く笑うだけで、決してセクタはそれが本当か嘘かを明かさなかった。
「ま、本当にしろ嘘にしろ、あの子供がここにいる事情なら師匠が説明してくれるだろう。ほれ、とりあえずお前らは師匠に挨拶して来い。その間になんか食い物準備しといてやるから。師匠なら今は部屋にいるはずだ」
セクタにそう促され、二人は首を傾げ、腑に落ちない表情で婀瓏孅の部屋へと向かう。そして挨拶を終えてから事情を聞いた二人がまず思ったことは、食べなくて本当に良かった、というものであった。
婀瓏孅への挨拶を終えると、二人は食事を始めた。そして、セクタの用意した遅い朝餉をあっという間に食べ終えてしまう。その食べっぷりにセクタは気持ち好いものを感じるのと同時に、そこまで餓えていた二人を憐れむ感情が浮かんでは消えたりしていた。
「セクタさん、もう少し食べたいです」
金釘流の食べ終えて最初の言葉である。
「兄。私も食べたい」
一息遅く食べ終える卦籤も同じく、まだ入るとばかりに箸を持ったままで言葉を続ける。
「もうじき昼餉になるからそれまで待ってろ」
その言葉に、不満そうに箸で茶碗を叩く二人。そんな二人をじっと眺めている、セクタの横にちょこんと座っているルルノ。時折気になって、二人もルルノをちらりと見たりしている。
事情を知った二人は、ルルノに詫びないと飯を食わせないとセクタに言われたので、すぐさま深々と頭を下げて謝った。それを見てもう襲われないと思ったルルノは、出したままの掃除の道具を片付けると食事の部屋を訪れ、今日初めて会った二人を遠くから観察することにしていた。どうも、二人の性格等を知らないままでいるのが落ち着かない様である。
「それより二人とも。まだ名乗ってもいないんだろ。一応名乗るぐらいはしておけ」
食べ終わった二人の食器を片付けながら、セクタはルルノを親指で指差してそう言う。そして食器を持つと、そのまま部屋を出て行った。




