朝食
婀瓏孅は一人だけ、薄味の粥をゆっくりと味わっていた。
「師匠。まだ三日目ですからもう少し食べても良い量ですけど、どうします?」
セクタはまだ少し粥が余っている鍋を見せた。
「そうね。でも、もう止めておくわ」
婀瓏孅の粥が、ゆっくりとなくなっていく。それを見て、足りるのだろうかとルルノは何気なく思った。だが、足りるわけがない。断食行とは、常に自身の空腹との戦いになる。それでも数をこなせば慣れるもので、婀瓏孅は二十日を越える断食行をすることさえある。けれど、今回は人を飼うという新しい試みを始めたばかりでもあるので、十日断食行で済ますことにしていた。
ルルノは婀瓏孅から視線を外すと、今度は興味深そうに残っている粥を見る。一口だけ食べてみたいなと、好奇心から思った。
「止めておきなさい。この粥は以前に食べた粥と違って、中に毒が入っているから、その毒に慣れていないあなたにはきついわ」
その視線に気付いた婀瓏孅は、すぐにルルノを止めた。
そう言われては、興味はあるが粥を食べたいとは言えなくなる。毒が入っているのかどうかをルルノは確認できないが、婀瓏孅が言うのならそうなのだろうと疑うことはなかった。
婀瓏孅が言う様に、この粥に入っている薬草はどちらかといえば毒草にも近い。効能は毒抜きや虫下し。毒で毒を排出するという為の薬なので、安易に口にしていいものではない。
「先生。まだ卦籤と金釘流が帰ってきませんが、そろそろではないでしょうか」
食事中に、思い出した様に皐詠舞祷が言う。
「そうね。今回は珍しく長いわね」
少ない粥を食べ終えた婀瓏孅は、やはり物足りなさそうに蓮華を弄んでいた。
「今日で二十三日目ですね」
旅の期間は、旅に出る者次第で実に様々だ。短ければ数日で、長ければ数年ということもある。そして、現在旅に出ている卦籤と金釘流の二人は旅の期間が瓏々邸の中でも短い。なにせ、五日以内に旅から帰ってくるということもざらなのである。それも、元々短期間という予定を立てていたというわけでもなく、空腹のあまり途中で切り上げて引き返すというのが常であったのだ。
「二十日は戻らないと宣言していたけれど、上手く続いているのかしらね。それとも、意地張っているだけかしら」
悪戯っぽく婀瓏孅は笑った。それを聞いて、思わずセクタも笑う。
そこでふと、婀瓏孅はルマリウルに訊ねる。
「ルマリウルは、どのくらい旅に出ていたのかしら」
「え、僕? 僕はそうだな、二ヶ月くらいかな。正確には数えてないけど」
そう答えながら、記憶を辿って確認を始める。
「二ヶ月と三日ね」
記憶を遡って日数を数えていたルマリウルに、さらりと皐詠舞祷が数字を口にする。
「おー、さすが皐詠舞祷さん」
妖怪は長寿の所為かそれ程時間には拘らない者が多く、それは、人から妖怪になったルマリウルにもいえることであった。それなので、旅などの期間に関しては本人も周りもずぼらであることが普通となっている。そんな中にあるので、細かく日時を気にする皐詠舞祷は、どちらかというと珍しい存在であった。
このような形で、今日も賑やかに朝の時間は過ぎていった。




