優しい光、温かい風
「ということは、他の三人も旅ですか?」
ふと気付き、その直後に口から質問が出る。
「そうよ。二人は一緒に旅に出て、今回は二十日間程だと思うから。そうね、明日明後日には帰ってくる頃じゃないかしら。もう一人はもう少しあとかしらね」
軽く指折り数えて、皐詠舞祷はそう答える。そして答えてから、旅に出ていた二人がもう帰ってくるのかと思い、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
「そう。私もセクタも暫く旅にはでないつもりだし、久しぶりに、内弟子全員が揃うのかしらね」
そして、弾んだ声で呟く。
内弟子全員が揃うことは、そう珍しいことというわけではない。ただ、一人二人はいない状態が普通である為に、ふとした時に揃っているとなにか嬉しく思えたりするのだ。
けれど、と考える。この子供を拾って、一ヶ月と経たずに全員が揃う。そして、しばらくは外の弟子が来ないというこの時期。丸一日、誰でも面倒が見れる絶好の時期。これは偶然なのだろうけど、不思議なものだ。
そして、一度そんなことを思ってしまったからだろう、これはもしかすると玉蟾の仕業なのではないのかと疑ってしまう。だが、色々と考えて、もしもこれが誰かの仕業であったと判明したところで、それがどうだというのだと考え直し、多少気にはなるものの考えることは止めることにした。
「ルルノ。きっとあなたは運が良いのね」
そう言って、頭を優しく撫でる。すると、ルルノはくすぐったそうに身を縮めた。それが面白くて、しばらく皐詠舞祷は少女の頭を撫で続ける。ルルノも心地好いので、逃げたりしない。
「くすぐったいです」
表情はないが、声にはとろんとした響きが混じる。それは、このまま撫で続けたら眠ってしまうのではないかと思うような声であった。
「そうなの? なら、逃げても良いわよ」
そうは言うものの、皐詠舞祷は逃がさない様に左手でルルノの肩を掴んでいる。ルルノも、肩を揺すりはするものの、本気で逃れようとはしていなかった。
あぁ、なんだ。こんな簡単に、これ程親しくなれるものなの。と、静かに、そして満足そうに感じた。
けれど満ち足りた思いでルルノの頭を撫でながらも、皐詠舞祷は思う。ルマリウルにルルノが問い掛け、そして問い返された時の返事。人の肉を食べることに対する、苦しみと嫌悪。それから思い出すのは、先々日のルルノの泣き顔。
この子はここで育つべきではないのではないかと思ってしまう。人は人、妖怪は妖怪、そうあるべきではないかと思ってしまう。
皐詠舞祷は小さく首を振り、その考えを払う。玉蟾や婀瓏孅の決定を、自分がどうこう言って良いわけはなく、考えたところで仕方ないと思った。そして思いを払った後に残るのは、せめてこの子の苦しみを減らしてあげたいという、温かな気持ちだった。
「ルルノ。判らないことがあったら、頼ってくれて構わないからね」
そう言う皐詠舞祷の意図が判らず、顔を見上げてから少しだけ沈黙する。それから、こくりと頷いた。
それを見て、皐詠舞祷はくすくすと微笑みながら少し強めに頭を撫で、またルルノは体を揺すって小さく逃げようとする。
縁側に並んで腰を下ろしている、年の離れた二人。その絵はまるで、仲睦まじい姉妹の様であった。




