内弟子
言い終わると、そこで初めてルマリウルは自分が何を言っていたのかに気が付く。途端、少しずつ顔が上気するのを感じた。ちらりと見れば、二人は真面目な目でじっと自分の顔を見ている。それに尚恥ずかしくなり、頭を掻きながら軽く跳ねて二人から距離を置いた。
「だから、なんか、なんかね。あれだよ、羨ましいんだ。どういう経緯かは知らないけどさ、君はここに来なきゃ行けない運命だった。でも、ここに人間のまま来たんだ。稀少だ。それは良いよね」
誤魔化そうとして出鱈目に出した言葉が、言った自分でもよく判らず、頭が白んでしまう。このままではまずいと、照れ隠しに笑いながら、焦っている自分を落ち着けることにした。
「あははは、ごめん、自分でも何が言いたいか判らなくなった」
言いながら深く呼吸をして、自分の心を整える。するとすぐに顔の熱も引き、頭の中も穏やかになった。
「はぁ。もう大丈夫かな。ごめんね、てきとうなこと言っちゃって」
「いえ、ありがとうございます」
そんなルマリウルに、ルルノはお辞儀をする。少女のそんな動作が可愛かったので、ルマリウルと皐詠舞祷は、揃って僅かに頬が緩んだ。
「あー、いやいや、気にしないで」
充分に頭が落ち着いたことを確認すると、両手をひらひらと振りながら答える。そんなルマリウルに、顔を上げたルルノがもう一度お辞儀をした。
「これから、よろしくお願いします」
ぽかんと、挨拶をされた男は間の抜けた顔を浮かべてしまう。頭の中には、今更じゃないだろうか、という言葉がまず浮かぶ。そしてそれに続く形で、今日からこの子も一緒に暮らすのかと、不思議な期待を覚えつつ改めて認識をした。
どう返事をしようか短く考えると、ルマリウルは普段通りの軽い笑顔を浮かべて、冗談っぽく挨拶を返す。
「こちらこそ。まずはそうだね、僕が君を食いたくなくなる程、君を仲間と覚える様に心掛けていこう。君も、僕にそう思わせる様に頑張ってくれ」
「はい」
「はは、即答か。良いね。楽しみになってくるよ」
そう言い残すと、風のような笑い声を響かせながらふわりと去っていった。はっきりと目に映るのに、どこか存在しない錯覚を与える程に気配が希薄で、四肢はあるのに体重などない様にふわりとした妖怪。それは霧か煙か、さもなければ幻のような印象を与える。そしてその去っていく後ろ姿は、幽霊というものが見えるとすれば、それは恐らくあの様に見えるのだろうとルルノに思わせた。
ルマリウルがいなくなると、皐詠舞祷が縁側に腰を下ろした。そしてルルノを呼び、自分の横に腰を下ろさせる。
「ルルノ。この屋敷の中には先生を除いて、私、セクタと二人の内弟子がいたでしょ。その他にね、あのルマリウルを含めるあと四人が別にいて、その四人を私たちに足した六人が、この瓏々邸の内弟子全員なのよ」
腰を下ろしたルルノに、ルルノが気になっているのではないかと思ったことを説明する。すると、やはり気になっていた様で、ルルノはじっと皐詠舞祷の目を見返している。
「それで、行くか行かないかは自分次第なのだけど、薬道を外で学ぶ為に旅に出るということがあるの。それで、ルマリウルは今日その旅から帰ってきたのよ」
ようやく弟子が全員いなかった理由が判り、ルルノはどこか満足そうな顔を浮かべた。本当は内弟子と聞いた時から、弟子の数が合わない理由を知りたくてうずうずしていたのだ。




