旅から戻った弟子
「お帰り、ルマリウル。もう挨拶は済ませたの?」
そこに皐詠舞祷が現れる。考え事はもう止めたのか、先程は眉間に浮かんでいた小さな皺が今はもう消えていた。
男はルマリウルという妖怪で、肌が白く、髪も色の抜けた銀髪、衣服さえ白と灰色の着物という、全体的に灰の様に白い妖怪だった。
「ただいま、皐詠舞祷さん。勿論ですよ。その時に先生から話を聞いて、この人間の子に会いに来たんです」
このルマリウルという妖怪はしばらく旅に出ていた。そして今日その旅から戻り、それを婀瓏孅に報告した際、人間を飼うことにしたからその人間は食べるなよと言われたのだ。
まさか人間を飼うなんて思ってもいなかったので、どんなものなのかという期待半分、そして食べてしまわない様にしっかりと見ておこうという気持ち半分で見に来たのである。だが、真っ正面から挨拶をするはずが、いざその姿を見てみると、むらむらと悪戯心が湧いて、気がつけば天井に立って脅かそうとしていた。
ルマリウルと短い会話をしていた皐詠舞祷が、先程までルマリウルのいた位置をじっと見詰めながら固まっているルルノの方へ向き直る。
「ルルノ。これも内弟子の一人で、ルマリウルというわ」
そう言われて、ようやくルルノの硬直は解かれた。そしてすぐにルマリウルに視線を移すと、何か言うべきだろうと思い、自分の名前を言うことにした。それ以外に話題は、まったく浮かばなかったのである。
「初めまして。ルルノ・ヤシュです」
挨拶をしながら、ふとルルノは気になった。この男の妖怪は、名前の雰囲気が他の妖怪のそれとは少し異なっている。どちらかというと、人間のそれに近い。
「初めまして。僕はかつては人間だったルマリウルだ。今は間違いなく妖怪だけどね」
そんなルルノの思いを知ってか知らずか、男はルルノの気にしていた部分に添う自己紹介をした。だがそれは、新しい疑問をルルノの中に植え付けた。
「人間、だった?」
興味を持ったルルノが質問をする。その様子を見た皐詠舞祷は、先程ルルノから言葉を引き出そうとしていたことを思い出し、ルマリウルに対して軽い嫉妬を覚えた。
「そう。でもあれだ、人間の頃の記憶はあんまりないんだけどね。人間だったって記憶があるだけで」
その返答は、ルルノの望んでいる答えとは少し食い違っていた。確認がしたかったわけではなく、それはどういうことなのかを訊ねたかったのだ。
「人間が妖怪になれるのですか?」
次は期待する答えが返ってくる様にと、質問の仕方を改める。すると、ルマリウルは少し考え込んでから口を開く。




