掃除
ルルノが初めて人の肉を見た日から、時は既に三日が経った。明日は二度目となる人の肉が料理をされる日、となるはずであった。であったのだが、人の肉が悪くなってしまったとのことで、次に羚馳が運んでくるまでは人の肉の料理は延期となった。そんな偶然に、ルルノはほっと一息吐いて喜んだ。
これは嘘であった。さすがに続けて心に傷を負わせることは控えさせようと思った婀瓏孅たちが、こうして肉を一旦遠ざけたのであった。あれだけルルノに人の肉だろうが気にするなと言った癖に、なんだかんだで過保護である。
この過保護というのは、何も食事に限ったことではない。
食べて眠る以上のことを婀瓏孅は求めていなかった。ただ健やかに生きてくれればそれでいいと思っていた。けれど、当のルルノは暇を持て余し、何かしらの仕事がないものかと求めた。結果、昨日は午前に玄関先の掃除をして、昼餉を挿んでから午後からは婀瓏孅の調薬を手伝った。
手伝うとはいえ、薬道の知識など持たないルルノは指示された薬の重さを天秤で計る様なことしかできず、全体としては手伝いというよりも学んでいたという方が正しい。なにせ、本当に必要な薬は婀瓏孅が自分で計り、不必要な薬ばかりをルルノに計らせ、無邪気に質問するルルノに細かく婀瓏孅は色々と教えていたのだから。
だが実際に教えてみると、婀瓏孅はルルノの作業の正確さと物覚えの良さには素直に感心してしまった。無論、まだ実際に調薬をさせるに至るわけではないが、それでも、婀瓏孅が薬道を教え込むのも面白いかもしれないと思わせるには至るほどであった。
その手伝い以外では、主に簡単で時間が潰せて役に立つという点から、掃除を任されることが多かった。
そうして今日も、ルルノは朝餉の後に掃除をしていた。今日は玄関先ではなく屋敷の中で、広い縁側に吹き込む木の葉などを箒で掃いて庭に落としていく。皐詠舞祷も共に掃除をしていたが、二人にはほとんど会話はない。ただ心地好く吹く風を、葉を縁側に放り込むことへの苛立ちもなく肌で感じていた。
「温かい風が吹くわね」
独り言の様に、皐詠舞祷はルルノに語りかける。それに、ぽかぽかと柔らかい顔をしたルルノが頷く。だというのに、少女は相変わらず無表情であるというところが可笑しくて、皐詠舞祷は優しくくすくすと綻んでいた。
屋敷の外周を周りながら、のんびりと縁側の掃除を進めていく。床を傷つけてしまわぬよう、二人は柔らかく箒を動かしていた。
この掃除は、ルルノに屋敷を巡らせようという皐詠舞祷の考えによるものであり、掃除自体は正直なところ二の次であった。




