温泉に驚く少女
衣服の用意を頼み終えた婀瓏孅は部屋に戻ると、少し落ち着いたルルノの手を引いて風呂場へと向かった。ルルノの表情は随分と落ち着いていたが、握っている手の平はまだ小さく震えている。そんな少女の顔を見て、婀瓏孅は失笑した。
「ふふ、酷い顔」
ルルノの顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。それを見て、楽しそうにくすくすと、少しばかり意地悪く笑う。
言われて、自分の顔の状態を想像すると、ルルノは少し恥ずかしそうに顔を伏せる。自分の泣き顔を見られることを恥ずかしがる程度には、心は落ち着きを取り戻していた。
二人は脱衣所に着くと、すぐに籠を用意して服を脱いだ。婀瓏孅は何も言われずともルルノが服を脱ぎ始めたのを見ていて、この屋敷に来て最初の日の人形っぷりは、やはり心が落ち着いていなかっただけなのだなと思った。そして、あのまま人形でいられても面倒だけど、改めて考えてみると、一から十まで手を入れられた機会を逃したとも思えて、少し惜しい気がした。そんな考えに、婀瓏孅は悪童の様に、くくくと笑った。
服を脱ぎ終えて脱衣籠に入れると、二人は浴場へと入っていく。そこで、ルルノは息を呑んだ。
「温泉だ」
驚愕を顔に貼り付けたまま、入り口で硬直する。まさか一つの屋敷の中に、温泉が用意されているとは思っていなかったのだ。そもそも、ルルノは人生で温泉などは数える程しか入ったことがない。普段は濡らした布で体を拭くというもので、稀に釜で温めた湯を頭からかぶることはあるが、その程度であった。
そんなルルノに、とうとう堪えきれなくなった婀瓏孅は腹を抱えて笑い出してしまう。最初の日に服を脱がなかったことはまだしも、これを本来はこうも驚くというのに、初めて浴場に入った日には欠片も驚かなかった。というより、今初めて見たような反応である。つまり、あの時にはそれ程まで頭の回転が止まっていたのかと思うと、可笑しくて仕方がなかったのだ。
何故笑われているのか判らないことと、目の前の温泉への期待と戸惑いが合わさって、ルルノは湯船と婀瓏孅とを交互に見ながらおろおろとする。そしてそれを見て、婀瓏孅は尚可笑しそうに笑うのであった。




