ここでの暮らし
「ねぇルルノ。私たちは変わらず人の肉を食べるわ。そしてあなたの料理にだけは獣の肉を使うわ。それでいいかしら? なんなら肉を食べる時だけは別室での食事にしても良いわよ」
「あ、私」
何かを言おうとして言い淀む。そしてその態度から、婀瓏孅は悟る。
「人の肉はね、獣肉よりも価値が高いのよ。だから、不味いと思ってるあなたにあげたら勿体ないわ。だから、あなたにはあげません。ね?」
「……はい」
価値がどうのというのは判らないが、価値が高いというのなら勿体ないということだけは判った。
「だから、あなたの皿に盛られた肉は安心して食べなさい。それなら食べられるでしょう。肉が嫌いということもないでしょう?」
「はい」
頷くルルノの顔に笑顔を見せる婀瓏孅だが、一瞬だけ、鋭い顔を作って見せる。
「けれど、さっきも言ったように私たちは人間を食べるわ。変わらずにね。それを認めなさい。普通な顔で食べられないなら、別室に移すわ。怯えた顔も、震えることも、何より吐きそうな顔をすることも駄目よ。いいわね」
それは、温度のない言葉。極力感情を殺した、優しさのない優しさ。
「は、は……い」
それに、ルルノは怯えた声で、ぼやけた返事をする。
もう人の肉が盛られるということはないという安堵がある。けれど、食卓に誰かの肉があがることは避けられない。それを何も感じずに見送るということを自分が出来るようになったとすれば、それは人でないものに変わってしまった後なのではないかと思えた。だからだろう。即答はできず、震えは強まり、血の気は一層引いていく。
「声が小さくて聞こえないわね」
しかし、婀瓏孅はルルノの言葉に興味などない様に顔を背け、苛立たしげに振る舞う。そうされては、ルルノの怯えは引かない。
覚悟と決意が揺らぐ。けれどそれが折れぬよう、歯を食い縛って震えを止めた。
「は、はいっ……次に人の肉が出ても、ちゃんと、ちゃんと」
必死に声を絞り出したが、それでも徐々に声は小さくなり、薄れてしまう。
「ちゃんと?」
睨みつけて、次の言葉を促す。ルルノはびくりと震え上がってしまう。それでも言葉を決め、震えを抑え、きっ、と婀瓏孅の目を見返す。
「ちゃんと……震えません」
絞り出した言葉。言い切ると、言い終えた開放感からか、あるいは言ってしまった後悔からか、ルルノの顔から表情が抜け落ち、今まで以上の涙が流れた。
そんなルルノの顔を見て、婀瓏孅はキツイ表情を崩し、ふぅと息を吐いてから、微笑む。
「良く言ったわね。無理をするな、とは言わないわ。無理をしなさい。それでも堪えられないようなら、言いなさい」
婀瓏孅の言葉に、ルルノは頷いた。




