昼寝の終わりに
ばちりと目を開き、ルルノは目を覚ます。呼吸が荒く、全身は冷や汗に濡れていた。
悪夢を見た。今まで見たことのない様な、異様な悪夢。それは心の奥の恐怖や罪悪感が、一番浅いところまで這いだしてきたような。見せつけられるだけだが、夢の中では目を閉じられない。
ごくりと息を呑む。それから、深い呼吸で気持ちを落ち着かせる。
段々と頭が落ち着いてきて、怖い夢のことを、現実と切り離して考えられる余裕が出てきた。すると、ここはどこなのだろうと、現実の疑問が湧いてくる。
疑問を確かめようと左右に首を動かそうとする。だが、体にのし掛かっている誰かの腕が邪魔で首が上手く動かない。左右を諦めて上を見上げると、そこに婀瓏孅の顔が見えた。そこで、ルルノはここが蒲団の中なのだと気付いた。
婀瓏孅は目を閉じ、静かな呼吸をしながら眠っている。その表情がとても穏やかだったので、ルルノの頭にこびりついていた嫌な夢の残り香全てが、あっという間に霧散してしまった。
しかし、朝起きたはずの自分が、今どうして蒲団の中にいるのだろう。そう思って首を傾げる。そして、何があったのかを順に思い出してみる。
朝食を食べ、その後に玄関を箒で掃き、羚馳という鬼と出会った。その後で。
そこまで記憶を辿り、ルルノは人間の肉が料理として出ていたことを思い出した。それと同時に昇ってきた吐き気を、ルルノは口を押さえて堪える。
「あら、起きたのかしら」
ルルノがごそごそとしていたからだろう。婀瓏孅が少し眠そうにしながらも目を覚ました。
その声にルルノはびくりと震え、自分の吐き気を悟られぬ様に、急いで上ってくる気分の悪さを呑み込んだ。
「眠る気はなかったのに、私も少し眠ってしまったみたいね」
苦笑いを浮かべ、婀瓏孅が上体を起こした。それに続く様に、ルルノも上体を起こす。
「ん。恐い夢でも見たのかしら」
ルルノの目に涙が溜まっていることに気付き、婀瓏孅はそれを指で拭いながら訊く。
「え? あ、はい。えと、よくは、憶えていませんが、見た気がします」
なんともない様に答えるが、人を食べかけたことを思い出し、とても気が気ではない。ルルノはそれを口にしたわけでもないのに、腹の中がとても気持ち悪かった。
そんなルルノを見て、婀瓏孅はそんなにも夢が恐かったのかと誤解した。
「大丈夫。夢はどれ程恐くても、こちらを噛むことなどできないから」
「あ。そう、ですね。はい、そうかもしれません」
夢を獣の様に例えるのは面白いな、とルルノは思う。だから、青白い顔のまま無表情ではあったが、ルルノは感心した様に返した。
その反応に、婀瓏孅は自分の思い違いを悟る。そして敏感に、ルルノが青い顔をしているのは悪夢ではなく、人の肉に対するものなのだと思い直した。
「そう」
唇に折った人差し指を添え、婀瓏孅は少し考える。なんという言葉を掛けるべきかを思案しているのだ。ルルノは自分の返事から婀瓏孅が考え始める理由が掴めず、きょとんとした顔になった。




