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花々咲乱(かかしょうらん)  作者: 相上いろは
第7話~残霞~
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悪夢

 薄暗い場所に、ルルノは一人、立ち尽くしていた。


 黒い感情を湛えた人の群れ。それは悪意の波。呑み込まれぬよう、ルルノは必死に立ち続けた。人々は幽鬼の様に歩み、狩人の様に鋭い目をして、ゆっくりとはルルノに近付いてくる。


 赤々とした夕暮れに似た色の空は毒々しい。


 一人の女が叫ぶ。この化け物めと、怒りを込めて。

 一人の男が叫ぶ。死んでしまえと、嘲笑を混ぜて。

 一人の子供が叫ぶ。母さんを返せと、石を投げながら。

 一人の老婆が叫ぶ。地獄に堕ちろと、呪をかけながら。


 老若男女、様々。しかし皆、一様に目に狂気を宿らせている。

 ルルノは声の限り叫ぶ。けれど、なんと叫んだのか、自分でもわからない。

 しかしその声は、誰にも届かない。


 どこからか声が響く。死ね、人喰いの鬼。その声を合図に、石が、槍が、鉈が、人々が持つ様々な凶器が放り投げられる。その多くは避けずとも当たらなかったが、幾つかは的確にルルノを貫いた。槍が手の平に刺さり、包丁が足を擦り、石が肩を砕く。痺れるような痛みが走る。

 その痛みに、思わず悲鳴を上げるが、なんとか倒れずに踏み止まり、また叫ぶ。

 その必死の言葉に、誰も耳を貸さない。ただ、殺意を向けるばかり。


 ところが突然、辺りの景色が一変する。人は消え、突然足下が柔らかくなった。何だろうと下を見れば、そこには折り重なる様に積まれた、人の山。

 絶叫。言葉にならないルルノの悲鳴。

 積まれている人は、決して全員が死んでいるわけではない。生きている人もいる。けれど、動けそうな人はいない。


 待っていて、今助けるから。


 ルルノが叫ぶ。その瞬間、周囲が輝く。火の手が上がった。

 驚いたルルノは周囲を見渡す。すると、その人の山を囲んで炎が上がっている。まずい、このままでは死んでしまう。そう思って、一番上にいる人から運ぼうと持ち上げるが、少女には大人の体を一人で持ち上げることはできなかった。


 苦しい、熱い。


 ルルノがそう呟く。すると、自分の足の下にいる人たちも、言葉を真似る様に口にする。そんな声を聞いて、ルルノは急がなければいけないと思い、より一層力を込めた。


 熱い、熱い。痛い、痛い。


 悲鳴が聞こえる。火が、一番下の人を燃やしたのだ。

 その声に、思わずルルノは人の山を下りて、一番下の人の火を消そうとする。だが、脱いだ自分の服で火を叩いてもすぐには消えない。どころか、叩いていた服に燃え移ってしまい、それで火を広げてしまうわけにもいかず、服は火の中に投げ入れた。

 悲鳴だけが響く。それを聞きながら、ルルノは何もできなかった。全員を助けたいのに、誰一人助ける術を持っていない。


 ふと、火の向こうに人が見えた。その相手に声を掛けようとするが、喉が焼けたのか、声が出ない。すると火の向こうの男は、笑って、矢が(つが)えた。ルルノに向かって。


 そしてまた、風景が変わる。


 ルルノはびしょびしょに濡れていた。自分の状況が判らないが、足は膝まで、まるで沼にでも浸かっているようだった。


 ここはどこだろう。そう思って歩き出すが、何もない。とにかく何かを見つけるまではと歩き続けると、沼に突き立てられている鏡を見つけた。気になったのでそれに向かって歩き出す。鏡は立派なもので、人を頭から足まで映せそうな大きな鏡だった。


 ルルノがそれを覗くと、そこには血に塗れた鬼が映った。

 驚いて止まる。そして、恐る恐る動くと、その鏡の中の血まみれの鬼は、ルルノと同じ仕草をする。

 そのまましばらく立ち尽くすと、ルルノはやがて力なく膝を折った。

 振り返れば、屍が小島の様に、血の沼の上に浮かんでいた。

 口の端から血が流れる。そして、人の指の欠片が口から溢れた。

 残っていた光が急速に失われていく。しかしもう、それに抗う力をルルノは持っていなかった。闇と血の中に、ルルノの意識は沈んでいった。


 だが、沈んでいくルルノの腕を、誰かが強く握る。そしてそのまま、ルルノの体を引き上げていく。それは女だった。顔は見えないけど、見覚えのある女の人。

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