今後の食生活
それを聞かされ、そうなのかも知れないと弟子は思う。だからこそ、肉は止めるべきではないかとセクタは言おうとするが、それを婀瓏孅は手で止める。
「だというのに、あの子の為に人の肉を止めれば、あの子は自分はここに居ない方が良いと思うかも知れないわね」
その言葉に、セクタは少し考えて、頷いた。確かに気を遣うことは、その分距離を置いてしまう気がした。
気にするだろうか。あの子なら気にするだろう。自問自答の結果は、するまでもなく予想通りのものであった。
「でも」
婀瓏孅の言葉に納得はする。しかし、だから何もしなくて良いかといえば、そうではない様に思う。慣れるのを待つのも良いかも知れないが、慣れさせることが酷である様に思えて仕方ない。だからどうにかしたいと思って口を開くが、言葉が続かない。
「あの子は、慣れるでしょうか?」
今度は皐詠舞祷が口を開く。
「さぁ、どうかしら」
対して、さらりと答える。実際、婀瓏孅も慣れるだろうかと考え、結局想像が付かなかったのだ。まだここにいる誰もが、ルルノを知らな過ぎる。
「とりあえず、私たちの食事については、何も変えないわ。ただ、あれには獣肉を出しましょう。それならまだマシでしょう。それでも駄目なら、何か考えるわ」
婀瓏孅の提案に、三人は頷く。それは、ここにいる全員が考えついた無難な提案であったが、それ以上の提案は誰にも浮かばなかったのだ。
食事を終えると、婀瓏孅は自分の部屋に戻った。まだルルノは眠っていたので、その横に静かに座る。そしてルルノの真上へと上体を動かして、寝顔を覗き込む。
ルルノは、小さく震えていた。寒いのかと思ったが、そうではない。歯を食いしばりながら蒲団を握り締め、耐える様に震えていた。恐らく、悪夢を見ているのだろう。
「そう」
これを見て、婀瓏孅は小さく溜め息を吐いて、優しく頭を撫でた。
ルルノはまだ乗り越えていないらしい。でも、戦っているらしい。
あのすっきりとしていた顔は、苦しみが一時的に去ったからの顔だったのかと、婀瓏孅は考えを改めた。だが正確にはそれも違った。ルルノの顔がすっとしていたのは、ただ、婀瓏孅の抱擁が温かかったから。
妖怪に囲まれた世界でたった一人、隣人は人の肉を食う存在うという状況。しかし、その孤立無援であるという思いの一部は、婀瓏孅の優しく穏やかな抱擁で破られた。腕の中にいた時だけ、ルルノは自分だけではないという思いが腹から満ちて、苦しみを忘れることができた。ルルノが部屋に寝かされた時の表情は、そんな淡い安心の表情であったのだ。




