冷めた食事
「それから、私はこの子を放り出そうなんて考えていないわよ」
これは、皐詠舞祷が聞きたかったもう一つの回答。
まさかその答えが聞けるとは思っていなかったのか、ほんの僅かに皐詠舞祷は驚いた。そして、嬉しそうな笑顔を作り頷く。
「判りました」
その笑顔を見て、婀瓏孅は可笑しそうに笑った。
「ふふ、情でも移ったかしら?」
笑いながら投げ掛けられた言葉に、皐詠舞祷は自分が微笑んでいることに気付いた。それにまた軽く驚くと、少し考えてから、柔らかく笑う。
「そうなのかもしれません」
そして、二人はくすりくすりと笑い合った。
しばらくして着付けを終えると、食べずに待っているであろうセクタの所へ歩いていく。案の定、食事に手を付けずじっと待っていた。
「食べていなさいと言ったでしょうに」
予想通りとはいえ、やはり婀瓏孅は呆れた顔。それに弟子は苦笑いを浮かべる。
二人が出ていった時と変わらずに置かれている料理の前に座り、改めて三人は食事を始める。時間が経って冷めてしまっているので、火を入れ直すかとセクタが訊くが、婀瓏孅を含めた全員が断ったので、セクタもそのまま食事を始めた。
「人間の肉、止めましょうか?」
無言で進む食事中に、ぽつりとセクタが呟く。小さな声ではあったが、話し声のない部屋では良く響いた。
その言葉に、しばらくは誰も答えない。問われた婀瓏孅は誰かから何か意見が出ないものかと黙っていたが、しばらく待って誰も言わないだろうと判断すると、そこでようやく口を開いた。
「それは、まったく食べなくなるということかしら?」
穏やかな声。だが、その質問にセクタは言葉に詰まる。それは辛いと思ったのだ。しかし、それでもあの少女の悲痛な表情を思えば、食べない方が良い様にも思える。ただ飼っているだけの人間だとしても、あそこまで苦しそうにされては滅入ってしまう。
妖怪は、人を喰らう。それは、単純な肉の美味さだけではない。妖怪は肉と共に、その肉の中にある念を喰らう。それは悪意であったり、嘆き、怒り、あるいは喜びであったり、また知識や欲求であったりと実に様々なものの味わいであった。そういったものが複雑ならば複雑な程に味が深くなる為、様々なことに大きく心を動かす人間の肉が一番好かった。それはもう、中毒性を持ってしまう程に。
そういう意味で言えば、子供の肉はそれほど美味しいわけではない。妖怪は子を浚い、助けに来た親を喰らう。子などは、親を怒らせる材料として使われるのが精々であった。
閑話休題。
止められるのか止められないのか、セクタは答えられずにいた。そんな弟子を見ていた師は、考えの手助けになる様にと、箸を置いて言葉を紡ぐ。
「恐らくあの子は、自分がここで暮らしていく為に人の肉を口にしようとした。そうすることで、この瓏々邸で生きていこうとしたのだと思うわ」
これは、ルルノの寝顔を見て思い浮かんだ婀瓏孅の推測であった。




