塗り薬
セクタと荷物運びを終えたルルノは、婀瓏孅に体の調子を見てもらっていた。
「足の裏も随分と綺麗になったわね。もう痛くないかしら?」
その問いにルルノは頷く。まだ少し足の裏に傷が残っていたが、それももうほとんど治っている。
ルルノの返答に婀瓏孅は満足して微笑むと、ルルノの脈を取り始めた。
痛みで動けなくなってもおかしくない状態から、ルルノは驚異的な回復を見せていた。この回復が婀瓏孅の薬の力であることは間違いない。だがそれだけではなく、ルルノの体が生きたいと強く望んでいたお陰でもあった。あれだけ傷だらけであった少女が、これほど強く生きようとしている。それが、婀瓏孅には面白かった。
今まで人間用の薬の調薬経験はなかった婀瓏孅ではあったが、既に随分と慣れた様子で、脈による診断と平行して調薬をおこなっている。ルルノが見ている前であっという間に調薬された粉は、器に入れられると水に溶かされる。そのどろりとした薬は、婀瓏孅の手に取られ、指先で薄く伸ばす様にルルノの体に塗られていく。薬が婀瓏孅の体温で温められ、柔らかくルルノの肌に広がっていった。
ルルノの体が僅かに震える。塗られた際に、まだ少し治りかけている傷がちりちりとした。しかしそれは、痛いと云うよりはくすぐったく、そして、眠気を誘う程に心地好いものであった。
「傷は残らずに済みそうね。良く眠ったからかしら。うん、中もだいぶ落ち着いてきているわ」
中とはルルノの内臓のことである。内臓が本来の活動を取り戻してきていることを、婀瓏孅はセクタの報告で知っていた。だが、治療を開始した当初の状態を知っている婀瓏孅自身で改めて診断してみるうと、回復の早さに驚いてしまった。
少女を驚異の速度で回復させていく自身の薬の成果に、そして少女がしっかりと回復したことに、婀瓏孅は童女の様な無邪気さで微笑んだ。
そんな婀瓏孅に体を優しく撫でられ、ルルノはまた眠りに落ちてしまいそうな温かな心地好さに包まれていた。寝惚け眼で二度寝をしない様にと必死に睡魔に抗っているが、既に頭は船を漕ぎ始めている。
夢と現の境界で揺れるルルノを、婀瓏孅は酒でも嗜んでいるかの様なふわりとした表情で、ただ穏やかに眺めていた。
やがて鐘が九回鳴る。正午を指す鐘である。




