お手伝い
泣き止んだ鬼から目線を逸らすと、再びルルノは牛の方へ向かい、その背中を撫でに行く。
「あやぁ。やっぱり子供はかあいいっすねぇ。和むっすねぇ。癒されるっすねぇ」
そんな後ろ姿を見送りながら、砂糖が溶けた様な柔らかな声でセクタに語りかける。その表情は、必要な緊張感さえ失ってしまったみたいに緩みきっていた。
「確かにそう思うが、あなたは少し蕩け過ぎだ」
あまりにその顔が情けなかったので、セクタは呆れて呟く。言われて羚馳は顔を引き締め、とりあえず荷物を降ろすことにした。次回の量や時期を決めるのは、荷物を運び終えた後である。
「それじゃルルノ、この荷車に積んである荷物を玄関へ運ぶから、その手伝いをしてくれ」
それにルルノは頷き、羚馳とセクタの傍に寄る。そして二人に向かい、両手を伸ばした。自分が運ぶ荷物を渡してくれと、声には出さずに体で語っているのだ。しばらくの間、二人はルルノの挙動の意図が掴めずぽかんとした顔をしていたが、動かずそのままじっとしているルルノを見て、ようやくその意図に気付く。
無表情に近い表情のルルノが、何かを期待する様に手を伸ばしている。その姿を、意図を把握した上で改めて見て、羚馳とセクタの二人は笑い出してしまう。
「あっはっはっはっ、確かにこれは可愛いな」
「あははは、そうっすよねぇ、やっぱかあいいっすよねぇ」
セクタは腹を抱え、羚馳は蕩けた顔をしながら笑う。そんな二人を見ながら、何故二人が笑っているのか判っていないルルノは不思議そうに首を傾げた。
しばらくして笑いが収まった羚馳から荷物を受け取ると、少しだけよろけながらルルノは屋敷の中へと入っていく。その後ろ姿を見て、再度二人は静かに笑い合った。
「あれはどうしたんすか? 食用、にしては幼いっすよね」
「あぁ、あれは玉蟾様の気紛れだかで、師匠が押し付けられたらしい」
「へぇ」
二人が見ていると、ルルノは荷物を玄関に置いて、とたとたと戻ってくる。そしてまた、無言で手を伸ばした。
セクタと羚馳は、目を逸らし、くすくすとひとしきり笑ってから、またルルノに荷物を渡した。
「あ、あはは。かあいいっすねぇ。また見に来ていいっすか?」
「あぁ、つぼに入った……ふぅ。んで、そんな遠慮しないで此処に来てくれていいと思うんだけど。というか、玉蟾様がまた気紛れでも起こさない限りはずっとここに居るだろうから、寄ったついでに見ていけばいいさ」
「いやぁ、あまり入り浸るのもなんっすから。でも、それは良かったっす」
人間が大好きな羚馳は、結構真剣にセクタへぺこりと頭を下げた。
そんな雑談を終え、セクタもルルノが運べなそうな大きめの荷物を持って、玄関と荷車の往復を始めた。そこそこの量はあったが、二人で往復すれば、さして時間は掛からずに作業は終了した。
セクタとルルノの二人が荷物を運び込み終えると、セクタは羚馳と次回の相談をしてから、来た時よりは大人しく、けれど轟音を響かせながら去っていった。
こうして、穏やかな午前の時間は、過ぎていくのであった。




