二牛と一鬼
そんなルルノを横目で見ながら、セクタは羚馳と会話を続けた。
「いや、良く間に合ってくれた。ちょっと手違いがあって、食料が更にぎりぎりになっちまっててな。危なかった。今日の朝餉は野菜だけだったよ」
そんな恥ずかしそうに頭を掻くセクタを見て、羚馳はふにゃりと表情を崩す。
「あやぁ、大変でしたね。間に合ったなら良かったっす」
そんな羚馳の顔に、セクタも破顔する。
それからセクタは牛に近付いて、二頭の頭を撫でる。
「お前たちもご苦労様」
すると二頭は嬉しそうに目を細め、頭をセクタに擦り寄せた。
「セクトァオスさんにはやっぱり懐くっすねぇ、嬉しそうな顔しちゃってるっす」
二頭の牛を眺め、羚馳は少し意地悪そうに笑う。
「にしし、この牛ら絶対にセクトァオスさんに惚れてるっすよ。ここに来る道程の気合いが半端じゃないっすもん」
すると、二頭は照れたのか、一瞬だけ硬直してから、少しだけ頭をセクタから離した。が、しばらくすると理性と欲望の葛藤の末に理性が負けたのか、一つ目の牛が擦り寄る。それに負けじと、双頭の牛もおずおずと擦り寄った。それにセクタは苦笑いを返し、それを見て羚馳は可笑しそうに笑う。
笑っていると、羚馳の視界に、牛をしげしげと眺めている少女の姿が映った。
「あや。人の子っすね」
と、そこで初めてルルノに気付いた。ルルノも自分が気付かれたと思い、今度は羚馳をしげしげと眺め始める。特徴的なのは、額の左右から、非対称に伸びた二本の角だった。
「角……牛みたい」
それは、無邪気な一言。
だが、言われた羚馳はその言葉に強い衝撃を受け、硬直してしまった。そしてしばらくして硬直が解けると、目元にじわっと涙が浮かべては、なんとも情けない表情を浮かべる。
「う、牛じゃないっす! あたし鬼っす! 牛あっちっす!」
自分の連れてきた二頭の牛を右手で指差しながら、左手で涙を拭う。まさか泣かれるとは思わなかったルルノは、少し驚きながら詫びた。
「あ、ごめんなさい」
ルルノは思わず謝る。だが、ただ相手が泣いていたので口から詫びの言葉が漏れただけであって、いまいちなんで泣かれているのかは察せていなかった。それが清々しい程に心がこもっていなかったので、ぐずぐずと泣きながらも思わず和んでしまった。
「うぅ、でもかあいいから許すっす」
許された理由さえもルルノは掴めなかったが、とりあえず許されたらしいことは理解する。すると、変わらぬ表情のまま、良かったと安堵した雰囲気を放った。その表情を見て、今泣いた鬼が笑顔になる。




