二度目の食事
そのまましばらくの時間が経つと、婀瓏孅がまた昼と同じ様な器に粥を入れたものを二つ、盆に乗せて現れた。廊下で皐詠舞祷と会ったので、受け取ったのであった。
「あら。起きられたのね、良かった。でも、また食べさせて欲しいかしら?」
婀瓏孅は悪戯に笑う。その笑いに、ルルノは少し赤くなりながらしゅんとしてしまう。
「お昼は、食べさせて、ありがとうございました。お夕飯は、自分で食べます」
小さな声で、かつ少し変な言い回しだったが、相手の耳に届くだけの音ではあった。
「聞こえないわね」
だが、婀瓏孅はそんな反応をする。まさかそう返されると思ってなかったルルノは、驚いた顔で意地悪い笑顔を湛える女を見た。その女は、驚きに染まった顔のルルノを見ると、心底楽しげににんまりと笑う。
「あなた、随分と無理を続けていたみたいね。体が相当痛んでいたから、まだ一人で食べることは難しいわよね」
そう一人で納得をする婀瓏孅を見て、おたおたと手を振る。何かを伝えたいのに、感情だけが先走ってしまい言葉が浮かばない。何をどう伝えれば良いのかが定まらず、上げた手は表現を見つけられないまま空中を彷徨い続けた。
それから一度手を下ろし、深い呼吸をして自分を落ち着ける。
「あの、大丈夫です。一人で食べられます」
本当に聞こえなかったのか、それとも意地悪をされたのか、ルルノには判別がついていなかった。それなので、少しだけおどおどとしながら、もう一度同じことを繰り返して言うに。
「そうね、判っているわよ」
それは、冗談だから本気にしないで、と言っている様に聞こえた。だから、ルルノも無表情ながら安堵の息を吐く。
だが、婀瓏孅は蓮華を手に持つと、粥を掬って息を吹きかけ、ルルノに差し出す。
「ほら、口を開いて」
それに対して、ルルノは困った顔で小さく唸った。
ルルノは、彼女がわざと聞こえない振りをしていたのだと確信した。そしてその確信と同時に、自分はどうするべきなのかを考える。目の前に出されたものを食べるべきなのか、それとも断って自分で食べるべきなのか、という二択。
ルルノとしては、他人に食べさせられるのは遠慮をしたい。昼は無我夢中であったが、恥じらいもあるし、何より自分にできることを他人にされるのは何か避けたい気持ちがあった。だがそんな意志を通したくても、相手は自分を養ってくれる存在で、また飽きれば自分を食べてしまうと公言した妖怪。どう考えても逆らうべきではない。
頭の中をぐるぐると考えが回っていく。理性的な思考を、どうしても感情的な部分が否定してしまう。そのどちらもお互いの主張を譲らず、決着が見えてくれない。
そんなルルノを、婀瓏孅は嫌らしい笑顔で眺めていた。ルルノが驚くこと、嫌がること、そして困ることを期待しての行為であったが、こうもその期待通りにルルノが驚き嫌がり、そして大層困ったものだから、婀瓏孅の笑みも深くなるばかりである。
瓏々邸に来てすぐのルルノは、ただ歩き続ける為に考えることを止めていた。それが眠り、そして思考をするのに充分な時間を与えられ、ルルノの思考は再びきりきりと動き出し始めている。そんなルルノの変化を敏感に察したからこそ、婀瓏孅はこうしてルルノに意地悪をして、少しずつ芽吹いていく反応がどんなものであれ、観察したかった。




