少し寝て、起きて
しばらく味わって口の中が空になると、久し振りに味わう食事にルルノは目を潤ませ、無意識に口を開いて粥を要求した。
「ふふ。はいはい、今あげるわよ」
そんな雛鳥の様な態度を見て、婀瓏孅は笑う。そして先程の様に、蓮華に粥を掬っては吐息で冷まし、それをルルノの口へと運んだ。
それを飽くことなく繰り返していると、やがて器は空になった。その頃にはルルノはふらふらと体を揺らし、蕩けた顔で目を回していた。粥の中に薬草が入っているので、その作用で眠気が昇ってきたのだろう。
「そんなに大きくもない体でよく食べたわね。でも、それだけ食べられれば上等でしょう。今はそのまま眠ってしまいなさい」
婀瓏孅はルルノの腰に敷いた座蒲団をどかし、ゆっくりとルルノの体を横にした。そして、ぼうっとした顔のルルノの瞼を閉じさせると、頭を軽く撫でる。
「お休み」
撫でている内に、ルルノは寝息を立て始める。ルルノが眠ったと判ると、いつの間にか食べ終えた自分の容器とルルノの容器を盆に乗せ、婀瓏孅は部屋から出て行った。
そのまますやすやとルルノは眠り、やがて日が傾いて橙が雲を浸食し始める頃、改めて目を覚ました。
寝惚けたまま周囲をきょろきょろと見回し、部屋には誰もいないことを理解する。そしてまた部屋を見渡すために上半身を起こしてみる。すると、先程は感じた痛みが引いていた。そのことに気付き、ルルノは無表情のまま驚いた。
「お、目が覚めたのか」
自分の手をまじまじと見ていると、部屋の戸口から声が掛かり、ルルノははっとして顔を上げる。そこには、ルルノが玉蟾に連れられて瓏々邸に来た時に顔を出した男が、部屋を覗き込むようにして立っていた。
じっとルルノに観察された男は、起きたのだから入って良いだろうと、ゆっくりと室内に入ってルルノに近寄る。そしてそのまますぐ隣に腰を下ろした。
「やぁ。師匠の部屋に入るのは緊張するぜ」
その男は、開口一番、頭を掻きながらそう笑った。
「初めまして。俺は石四眸……いや、人間の姿の時はセクトァオスって名乗ってる。お嬢ちゃんはそっちの方が呼び易いよな。セクタと呼んでくれ。皐詠舞祷の次の弟子だ。よろしくな」
石四眸。それがこの妖怪の本来の名前である。だが、人間の姿の時に妖怪の名を使わない様にと、石四眸は人の姿をしている間はセクトァオスという名を名乗っていた。人間の名前を名乗る妖怪は少なくないが、人間との接触が希薄な瓏々邸に於いて、普段から人間の名を名乗る妖怪は希であった。




