お粥
視線を彷徨わせるルルノに、婀瓏孅はこれ以上待たせるのは気の毒かなと感じる。
「もう食べていいわよ。熱いから気をつけなさい」
その言葉を聞くや否や、ルルノはゆっくりと蓮華を手に取って粥を掬う。しかし、蓮華を持った途端に腕が痺れて痛んだ。
「んあ……」
小さく呻き、全身を包む針の様な刺激に息が止まる。思わず驚きや混乱で意識を手放しそうになるが、それをルルノは目を強く閉じ、呼吸を止め、歯を食い縛って耐えた。痛みが通り過ぎると、荒く呼吸を再開させる。目を見開くと、潤んでいた目から涙が伝う。それとは別に、冷や汗が首筋を伝った。
呆然とした顔でルルノが固まっている間に、婀瓏孅は既に三口目を嚥下する。食べながらもルルノを見守っていたので、段々と、ルルノが痛みで体を思う様に動かせないのだろうということに気付いてきた。長い睡眠と、強い薬を摂取し続けた影響だろう。痛みを堪えて無理をすれば食べられないことはないだろうが、痛みに呆けた少女を見ると、このまま放っておくのも酷かと思ったので、四口目を嚥下するとルルノの傍に寄った。
「体を動かすのが辛そうね。食べさせてあげようかしら」
言いながら、ルルノの手から蓮華をするりと奪う。それがあまりにも自然に奪われたので、ルルノは蓮華を取り上げられた錯覚を起こして、婀瓏孅の手を追おうとするが、直後に全身が震えて動けなくなる。
「じっとしてなさい。ほら、あなたの食べたがっているものよ。口を開いて」
口の前に、粥を掬った蓮華が突き出された。立ち上る湯気と匂いが鼻から胃に染み入って、ルルノのお腹がまた控えめに鳴く。他人に食べさせてもらうということに抵抗があったが、そんな恥じらいは食欲の前にあっという間に潰え、ルルノはゆっくりと小さな口を開いた。
蓮華がぎりぎり入るその口に、すぅっと蓮華を差し入れ少し傾ける。すると、ルルノは目を閉じて、荒く息を吐きながら全身をもぞもぞと震わせた。熱かったのかと思い、まだ粥が乗っている蓮華を引き抜く。
「あら、熱かった?」
その問いに、ルルノはこくりこくりと頷いてみせた。そして、口の中の熱を冷まそうと、慌ただしく呼吸を繰り返している。
「ふふ。しょうがないわね」
そう言うと、婀瓏孅は蓮華に口を寄せ、ふぅと優しく息を吹き掛ける。何度か息を吹き掛けて冷ますと、どうにか熱かった粥を嚥下したルルノの口に向かい、もう一度蓮華を突き出す。どのくらい冷めたのか判らないのが不安な様で、ルルノは恐る恐ると口を開いた。その口の手前に蓮華を持っていき、そこで停止させる。
ルルノはその粥に対して、唇と舌先で粥にちょんと触れて温度を確かめる。何度か突いて大丈夫と判断すると、蓮華を口に含み、ぱくりと口を閉じた。
少ししてから婀瓏孅が蓮華を引き抜くと、ルルノの唇が蓮華をなぞる様にとろりと動く。そして全て引き抜かれると同時に、ルルノはゆっくりと咀嚼を始めた。米を噛み締めていく内に、徐々に頬を上気させて、嬉しそうに目を潤ませていく。




