久々の食事
「ん。大丈夫そうね。お腹は空いているかしら。かれこれ丸三日……あぁ、それ以上食べてないのよね」
時刻は正午過ぎ。昼餉の時間を僅かに過ぎる頃だった。婀瓏孅はルルノが起きるのを今か今かと待っていた為、昼餉をまだ食べておらず、その為に少し空腹であった。それが、目覚めてすぐのルルノにまず食欲を訊ねた理由の一つでもある。
ルルノは少し考えてから、自分の空腹を自覚する。
「はい、空いてます」
簡潔な言葉。そしてそんな言葉以上に雄弁に、ルルノのお腹が控えめに鳴いた。その音に、一瞬だけきょとんとしてから、ルルノは恥じらいに顔を赤く染める。そんなルルノを見て、婀瓏孅は小さくくすくすと笑った。
「そう。それなら今持ってくるわね。一応薬を与えたし按摩もしたから、粥さえ食べられないってことはないでしょう」
問い掛けにルルノがこくりと頷くと、婀瓏孅は満足そうに笑って部屋を出ていった。
婀瓏孅を認識したことで、ルルノの頭に自分の身に起こった出来事が雑に広がっていく。そして、記憶が浴室に入る辺りから途絶えていることに気付いた。
上半身を起こす。と、思いがけない痛みが走って、小さく呻いてしまう。
「なん、で?」
腕に力が入らず、動かそうとすると震えた。しかも、それは腕だけじゃない。胸も腹も足も、動こうとすると震えて痛む。
何があったのだろう。考えてみるが、原因は判らなかった。
痛みに唖然としていると、二杯の粥を乗せた盆を手に婀瓏孅が部屋に戻ってきた。その二杯の粥は、どちらも随分と大きめの容器に入っている。
「お待たせ。残しても良いから、食べられるだけ食べなさい。食べられなければ重湯でも持ってくるわ」
魚の削り節、それに干した小魚が少々。それが湯気に乗って香り、食欲を引き立てる。ルルノはこの瓏々邸に着く前から飢餓の状態にあった為、食欲は異常な程に高ぶっていた。栄養などは寝ている間に婀瓏孅が与えたからそこまで不足はしていないが、何より味覚と内臓が刺激に餓えている。
「ふふ、待ち遠しそうな顔してるわね」
ルルノは自分の口の端を唾液が伝っていることに気付き、慌てて腕で拭おうとする。びきりと痛みが走ったが、どうにか腕を動かして拭うことはできた。
そんなルルノを見ながら、婀瓏孅は盆に乗った粥をルルノの腰の横に置いた。そして、自分の分を床に置くと、ルルノの腰に、二つに折った座蒲団を敷く。すると腰の位置が上がり、上半身が起こし易くなった。
「あ、ありがとう、ございます」
ルルノは感謝を言いながらも、ちらりちらりと目線が粥に向ける。それが面白くて、婀瓏孅は小さく笑った。しかし、ルルノは笑われていることに気付かず、もう食べて良いのか、まだ食べてはいけないのかということだけを考えていた。




