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花々咲乱(かかしょうらん)  作者: 相上いろは
第0話~花咲く道の先~
3/95

石段を越えて

「それじゃあ、ルルノ。俺は先戻ってるぜ」


 そう云って、両足に力を込める。石段を駆け上る気らしい。


「あ、セクタお兄さん。私はこの熊さんの用事を聞いてから戻るので、明日頃帰ると、先生にお伝え願えますか?」

「あ? あ、そか。そうだな。判んないわな」


 そう云うと、セクタは呵呵と笑った。なぜ笑われたのか判らないルルノは目を丸くしてしまう。


「ルルノ、その熊な、お前を上に運んでやるって云ってンだ。乗せて貰うと良い」


 セクタの言葉に目を丸くしてから、改めて熊を見る。そして、脳裏で言葉を繰り返し、咀嚼する。


「熊さんが、何をどこ……私を? え、私を?」

「そ。ルルノをこの石段の先、門の前まで」


 自分と上を指差され、それを追って見上げる先は、幅十尺というほどの幅広い石段が延々と連なる遥か先、山の頂。


「本当ですか!? ほ、本当ですか熊さん?」


 ルルノが問いかければ、熊は相変わらず小さく吠える。それは不思議と、肯定を現す声のように、聞こえなくもなかった。


「ありがとうございます熊さん! 着いたらお礼します!」


 すると今度は、幾らか嬉しそうに、熊が吠えた。

 それを微笑ましく見守ってから、そうだ、とセクタが手を打つ。


「ルルノ。麻綱持ってるか? 貸してみれ」

「はい、ありますけど」


 ルルノは荷物を改めて解き、麻綱を取り出すと、セクタに渡した。

 麻綱は、荷物をまとめたり、濡れた衣類を干したりする為に持ち歩いているものである。


「おお、ずいぶんくたびれてるな。よっと……まあ、切れないだろう」


 それを持って、熊に少し話しかけると、首に掛けた。


「よし。これ掴んでりゃ少しは安全だろう」

「わあ、手綱ですか。ありがとうございます、セクタお兄さん」


 云いながら荷物を片付ける。そして片付け終わった荷物を担ごうとしたら、それをひょいっと取り上げられた。


「落っことしちゃいけねぇからな。荷物だけは持って帰っといてやるわ。ほれ、杖も菅笠も寄越しな。良し。それじゃあ、また後でな」


 云うが早いか、足腰に力を入れたかと思うと、セクタは石段を駆け登りあっという間に見えなくなってしまった。


「わあ、速い……私も、いつかは駆け登れる様にならないと……いつか」


 それは果たしていつの日か。

 差し当たり今は熊に甘える。そう固く決意している。


「それじゃあ、えっと。すみません、お待たせしました。よいしょ、よいしょっと」


 伏せてくれている熊に、足を掛け、どうにか熊の上に乗る。意外に大変だった。


「わあ……それじゃあ、お願いします。熊さん」


 ルルノがそう云うと、熊は、ゆっくりと立ち上がった。ルルノは少し姿勢を崩しかけたが、手綱のお陰で転げ落ちることだけは防げた。

 そこでどうにか姿勢を正すと、熊は少し遠慮がちに、石段を登り始めた。しかし、それから少しずつ熊は加速を始め、あまり大きく揺れない程度、ルルノが落ちない程度の速度で、軽快に石段を駆け上がっていった。


「速い! 快適! ちょっと怖い!」


 熊の背で、楽しそうにルルノは笑った。

 果たして幾百か幾千か、石段は続いている。快適な熊の背の旅を、しばらくルルノは楽しんでいた。

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