お茶菓子お終い
図讖戯は話を終えたので、静かに茶菓子に手を伸ばした。
二人はのんびりとした日の光を、少しぬるくなった茶と共に味わう。そこから見える全てが、穏やかな世界であった。
そんな中で、ぽつりと婀瓏孅は呟いた。
「私に、人間の子供を育てられると思う?」
ほんの些細な、そして無意識に漏れた弱音であった。
「そうですね。婀瓏孅さんなら、健やかに育てられると思います」
それは何気なく、ちょっとした言葉だったが、心が安らいだ。やれるかもしれない。そう思わせるだけの力があった。
「それにですね、あたしが育てると性格が歪むと言われましたので」
続けて、そんな言葉を自嘲臭さが少しもしない口調で言う。聞いて一瞬だけ目を丸くしてから、婀瓏孅は悪戯っぽく笑い出した。
「酷い事を言うのね」
「まったくです」
二人揃って穏やかに笑い合う。玉蟾がどういう風にそんな言葉を口にするのか、容易に想像できることが面白かった。
「でも、悪いわね。それには私も同感だわ。あなたがもう一人いるなんて考えたくもない。面倒で仕方ないわ」
「おや。婀瓏孅さんも酷いですね。あたしってそんなに悪い性格でしょうか」
とは言うが、傷付いた様子はない。なにせ、問い掛けでさえないのだから。
「ふふ、相手が何考えてるかさっぱり判らないっていうのは、なかなか恐いものなのよ」
それからも二人は、しばらくの間くすくすと笑い声を漏らしていた。
「そんなものですか」
「そんなものよ」
話しながらも、二人の笑いは引かない。温かい空気に包まれた様に、婀瓏孅は眠気にも似た心地好さを感じていた。
しばらくして笑いの波が引いてから、二人は茶を飲み、深い呼吸をする。
「そうだ、もう一つ訊きたいことがあったわ。あれの性格は元々あんなものなの? 命令されないと何一つしないっていうのは、過労の所為だと思っているのだけど」
忘れていたが、とても気になっていたこと。無理をしていたことは判っていたが、もしかすると無理をしていたのは体ばかりで、元から誰かの言うことに従うばかりの人間なのかもしれない。そう言う人間だと、育てるのは楽だけれど、面白くはなさそうだなと思っていた。
そんな少し不安そうな言葉に、図讖戯は柔らかく答える。
「いえ、違います。疲労もありますし、辛い思いもありましたから、それを多く抱え込みすぎてしまったことなどで、一時的に心を閉ざしてしまっているだけです」
ルルノの過去を思い出し、顔が僅かに歪んでいく。が、嫌悪を見せることに意味がないと、どうにかそれは堪えて表情を戻す。
「そうだったの」
静かに、息を吐くままに口にした。
二人はそれきり口を塞ぎ、静けさの中で茶を飲んでいく。どちらにも言葉ないが、不思議と居心地の悪さは感じていなかった。
やがて、図讖戯は自分の茶菓子を食べ終える。




