こと此処に至った経緯
驚く婀瓏孅に、図讖戯はそうですと軽く頷いて見せた。その言葉に少しだけ迷う。
情報屋としての図讖戯は、気持ちの悪いほど有能である。様々な出来事のみならず、様々な心の裡さえ知り尽くしている。図讖戯が言うのなら、本当に自分の考えるようなことはないのだろう。そう思うと、それなら話を聞かなくても良いかとも思う。しかし、なんにしても人間の少女と一緒に過ごすのだから、知っておいて損はないだろうと考え、予定通り聞いておくという結論に至った。
「知識が無駄になることはないでしょう。聞かせてもらうわ」
その答えに、にこにことした表情は崩さず頷くと、小さく咳払いをしてから話しを始めた。
「では、そうですね。どうせ事細かに語ることもないので、おおざっぱに。彼女の住んでいた村には、特別な信仰があったことからお話ししましょうか」
その言葉に婀瓏孅が頷くのを確認してから、図讖戯は簡単に説明を始めた。
「彼女、ルルノさんの暮らしていた村はですね、ハルエラという神を信仰する文化があったんです」
それを聞いて、婀瓏孅は記憶の中からハルエラという言葉を探るが、似た様な名前の神でさえ浮かばず、どうしてもその名前を記憶から見つけることはできなかった。
それなので、ふとその神がどういう神なのか閃いた。
「憶えがないわね。それって実在する神なの」
全ての神を知るわけではないので、自分が知らないのかも知れない。そう思って訊ねるが、図讖戯の答えは予想通りのものだった。
「いえ、これはルルノさんの祖先が想像した神です。起源としては、その村の最初の長の娘の名ですね」
図讖戯の言葉を聞くと、婀瓏孅は呆れた顔をして溜め息を吐く。
「知らないはずだわ」
「えぇ。ですが、人が人の名で生み出したものと言っても、長く強く祈ることで実際に形と力を持ってしまうこともあるのですから、あまり馬鹿にしたものでもないですよ」
くすりと笑いながらそう諭してきた。
「とはいえ、その神は信仰され続けても別段力を持ちはしませんでした。あくまで教えの一環としての神でしたので。ちょいと細かな内容になりますが、その神は万物を平等と説く存在でしてね。村の教えでは、石や水、人や獣、また神や妖怪は全てが同じ命を持つ存在であるというものでして、それを子々孫々と語り継いでいく為、いつしか生み出され名付けらた神なのです」
その話を聞いて、ふむ、と婀瓏孅は少し感心した。
「なるほど。でも、何故それが特別な信仰になるのかしら。信仰なんてどれも特別なものでしょう?」
その教え自体に殊更変わった点があるとも思えず、それが特別とされる理由も判らなかった。
「特別と言いましたのは、全てが平等と説く教えなので、大国に限らず、貧富のある集まりにとって、少し都合がよろしくなかったのです」
その言葉で、婀瓏孅はことの次第を察して、苦々しい顔になる。
「話は変わりまして少し前のことになりますが、ルルノさんの暮らしていた村は大規模の火事に見舞われて、生存者なしということに相成りました」
淡々と笑顔を崩さず話を続ける図讖戯に対して、婀瓏孅の顔は感情のままに歪んでいった。
「なるほど。それは気分が悪いわね」
生理的な嫌悪からか、露骨に嫌そうな顔をして、そう吐き捨てた。




