情報屋
「先生。お茶をお持ちしました」
どれ程の時間が経ったのかは意識していなかったが、気付けば横に皐詠舞祷が立ち、茶と茶請けを乗せた盆を婀瓏孅の横に置いていた。
「ん。ありがとう」
その言葉を聞くと、皐詠舞祷は頭を少し下げてから去っていった。
縁側で一人になると、ぼうっと空を見上げ、風を深く吸い込む。それから大きく息を吐いてから、思い出した様に口を開いた。
「まだるっこいやりとりは省くわね。あの人間のことを聞かせて」
誰もいない自分の隣に、婀瓏孅は問い掛ける。すると、横で風が少し強く吹いた。
「おや。この茶菓子は上等なものですね。有り難いですね。あなたは良い物を用意してくれるから嬉しい限りです」
と、婀瓏孅と茶の乗った盆を挟んだ位置に、どこからともなく現れた髪の長い男が腰を下ろす。
着ている着物には、半分には春を、もう半分には秋を彩る花々の模様が描かれている。女物の様に艶やかなものであったが、この男はそれをほとんど違和感なく着こなしていた。
「これに見合うだけ、あたしの知る範囲のことをお教えしますよ」
「あなたが相変わらずの甘党で助かるわ。図讖戯」
突然現れた男に驚いた様子もなく、婀瓏孅は会話を進める。
男の名は図讖戯という。それで生計を立てているわけではないが、所謂情報屋である。
細い目でにこにこと笑っているが、これは機嫌が好いというわけでもなく、この男はこの表情しか持ち合わせていない。
「えぇ、変わりませんでしょうとも。ですが、婀瓏孅さんは人の子を飼うなんて、随分と変わったことをしておいでで」
図讖戯は悪戯っぽく笑いながら、穏やかに言葉を続けていく。
「過去を知りたいなんて、よほどのことじゃあないですか?」
楽しそうな図讖戯に、婀瓏孅ははぁと小さく息を吐く。
「初めてなのだから、用心もするでしょう。飼ったことなんてないのだから」
こちらも同様に、けれど少しばかり薄く笑う。
「そうでしょうね。そうでしょうとも。希な状況だと思いますよ」
うんうんと頷いて見せてから、けれど、と指を立てた。
「とはいえ、境遇に気の毒だと思いこそすれ、生まれや育ちが特別変わっている子というわけではないですよ」
「あら、そうなの?」
その言葉に、きょとんとした顔で応じる。




