庭の小さな池
「お茶と茶請けの菓子を二人分用意してもらえるかしら」
「はい。どちらにお持ちしますか?」
ルルノはまだ眠っているので、誰か来客があるのかと皐詠舞祷は気になった。だが、それについては質問をせず、お茶を運ぶ場所だけを訊ねた。気になっても問わないのは、婀瓏孅が訊ねられることを嫌うわけではないので、皐詠舞祷の性格によるものなのだろう。
「池にお願い」
屋敷の敷地内には、小さな納屋ならば入ってしまいそうな池がある。透き通った水は、あまり風の吹かないこの山頂で、青く澄んだ空を映していた。
婀瓏孅は、それを見ることのできる縁側に腰を下ろして雑談をすることが多い。これは婀瓏孅が特別に池を気に入っているというわけではなく、丁度その縁側が穏やかな風の通り道となっており、良い匂いがして落ち着けるからであった。
「判りました」
頭を下げてから、しばらく沈黙して、意を決して一つだけ質問をする。
「あの人間の子供は、大丈夫ですか」
「ん? えぇ。あれのことは、セクタにも診断をしてもらっているわ。手が空いたら、皐詠舞祷も見てやってくれるかしら」
その言葉に、ほっとした顔を見せる。
皐詠舞祷は、少女のことなどはそれほど気にしてはいなかった。ただ、少女が体調を崩して倒れたら、婀瓏孅が気を落とすのではないかと、そちらの心配をしていた。
再度頭を下げると、皐詠舞祷は台所へと向かっていく。その後ろ姿を見送ることなく、婀瓏孅は目的の縁側へと歩いていった。
静かに歩み進み、花の香りを感じたと思うと、目的の場所に着く。早速その場に腰を下ろし、ぼうっと池を眺め始めた。
彩り豊かな花よりも、婀瓏孅には水面の穏やかさが心地好かった。まるで鏡の様に周囲を反射させる水面を見ていると、自分の心が池と同じく透き通っていく様に感じられ、しんと心が落ち着いていく。普段はさほど意識しない池であったが、落ち着かない時には、婀瓏孅は我知らずにこの池を見に来ていた。
池を眺めていると、改めて自分は何をやっているのだろうという思いが湧き上がり、笑い出したい気持ちになった。




