眠る少女
ルルノが倒れてから二日が経った。未だ少女は目を覚まさず、婀瓏孅の部屋で赤い顔をして眠り、たまに意識が表に昇ってくる度、苦しげに呻いていた。
「まったく。何処で何を探せば、こんなぼろぼろのなんかを持ってこれるのかしらね」
人間にも害がない程度に薄めた飲み薬を飲ませ、全身に塗り薬を塗り、それが終わると婀瓏孅は溜め息を吐いた。
人間の、それも弱り切った子供に与える薬など作ったことがなく、また研究する時間もなかったので、即効性で傷を癒すような薬をルルノに与えることができなかった。それが不満となり、不機嫌な雰囲気を漂わせていた。
「玉蟾が予め教えて置いてくれたなら、大分楽だったでしょうに」
愚痴が漏れる。
だが、それでもルルノは二日という時間だけで、本来なら奇跡的とも言える速度の回復を見せていた。今のルルノは随分と穏やかに眠っている。歯を食いしばることもなくなったし、血行も安定している。
浴場で意識を失ってからずっと、ルルノは婀瓏孅の部屋で寝かされていた。それは、ここに置いておけばいざという時に、すぐに対応できるからと言う判断からであった。
運ばれてすぐ、ルルノは真っ青な顔で血を吐いた。意識がない状態だったので、婀瓏孅はルルノの唇に自分の唇を重ね、血が気管を塞いでしまわぬ様にと、何度となく血を吸い出した。その上、どこから出血しているのか判らない為、迂闊には動かせなかった。
力なく口の奥に沈む舌が邪魔だったので、指で摘み出してから軽く噛み、そのまま血を吸い出し続けるという作業など、婀瓏孅は初めて行なった。
血を吸っては、舌を指で摘まむと口を外し血を吐き捨てる。そしてまた口を付けて血を吸うという作業の繰り返し。血を吸い出すこと以上に、舌を噛み千切ってしまいたくなる欲求を堪えることの方が婀瓏孅には辛かった。
不味い血。口に血を含む度にそう思う。栄養も何もかもが乏しい。更に、濁っていて粘度が高過ぎる。これ程不味い血を味わったことは今までになかった。美味ければ飲み込めるだけ、作業が楽であったというのに。
口の中に溢れる血を一通り取り除くと、今度は水に薬を溶かし、それを喉の奥へと流し込んだ。薬は止血、造血、解熱、内臓の調整といった効能が主であり、それに栄養を少しばかり加えたものであった。薬を三回に分けて、一日に二合程ずつ飲ませた。
更に、皮膚から吸収する薬を作り、それを全身に塗りつけていく。その途中で、婀瓏孅の噛んだ舌がやはり少しばかり傷ついていたので、親指と人差し指で丹念に薬を塗りつけた。
長い時間を掛けて丁寧に全身に薬を塗り終えると、今度は別の薬を髪の毛に塗り始める。それは髪の毛に栄養を与え艶を取り戻させるものであり、これだけは婀瓏孅のただの趣味であった。




