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花々咲乱(かかしょうらん)  作者: 相上いろは
第2話~人ならざる者の棲まう山~
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浴室の中で

「体を洗ってあげるから座りなさい」


 どこか落ち着きないルルノだったが、そう言われるとすぐに木を敷き詰めた床に腰を下ろした。

 この瓏々邸(ろうろうてい)の風呂は、頂に存在する温泉から湯を引き入れる形となっているので、常に湯が張られている。その為、贅沢に湯を使って体を洗い流すことができる。そんな湯船に浸かったことがないルルノは、そんな珍しい浴室に大いに戸惑っていた。


「目を閉じていなさいよ」


 そう言われて、ルルノはきつく目を閉じる。それを確認してから、婀瓏孅(あろうせん)は手桶で湯を汲み、ルルノにかけた。


「……っ」


 呻く。全身の傷が痛んだのだ。しかし、どうすることもできないと思ったので、婀瓏孅(あろうせん)はそのままお湯を掛けていく。

 ルルノの体を伝い床を流れる湯は、黒に近い泥色であった。

 何度か湯を掛けてから、婀瓏孅(あろうせん)は浴場の隅に行き、そこにある一尺程の箱を開ける。中に入っているものは、婀瓏孅(あろうせん)が調合した粉末状の薬。それを一握り掴むと、濡らした手拭いに擦り付ける。それから手拭いを折って、洗濯をする様に摺り合わせた。


「そのまま目を開けないでいて」


 充分に薬を付着させた手拭いで、ルルノの全身を拭き始める。

 ルルノから、小さく声が漏れた。ひりひりとした痛みもあった。だが、手拭いが上等なのか、それとも薬の所為なのか、それはまるで柔らかい綿で体を拭かれている様な感触で、痛みはすぐに薄れてしまった。それに最初は驚いたが、その心地好さに、徐々に全身から力が抜けていく。

 夢見心地のルルノを頭から足までをしっかりと洗うと、婀瓏孅(あろうせん)は汚れと薬とを流す為に湯を頭からかける。酷く汚れていた肌は本来の色を取り戻し、乱れていた頭髪も僅かにだが艶を取り戻した。

 傷だらけの体と髪が、ようやくそれと認識出来る様になった。


「髪を整えるまでは、しばらく時間が掛かりそうね」


 ルルノの髪を手櫛で梳かしながら、婀瓏孅(あろうせん)はこの髪も綺麗にしてやりたいと思った。

 湯船に入れる前に、どこかふらふらとしているルルノの髪を束ねてやろう。そう考えて婀瓏孅(あろうせん)が髪を束ねようとした直後、ルルノはくらりと揺れて、そのまま意識を失って倒れてしまった。


「え?」


 何が起こったのか判らず、婀瓏孅(あろうせん)は呆然とする。

 まさか、薬が強過ぎて死んでしまったのか。そんな不安に、僅かに婀瓏孅(あろうせん)の顔から血の気が引く。


「……玉蟾(ぎょくせん)。まさか、そういう悪戯じゃ、ないわよね」


 恐る恐るルルノに触れる。心臓は動いており、呼吸はしている。死んだわけではない。そのことに、ひとまず安堵する。

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