浴室の中で
「体を洗ってあげるから座りなさい」
どこか落ち着きないルルノだったが、そう言われるとすぐに木を敷き詰めた床に腰を下ろした。
この瓏々邸の風呂は、頂に存在する温泉から湯を引き入れる形となっているので、常に湯が張られている。その為、贅沢に湯を使って体を洗い流すことができる。そんな湯船に浸かったことがないルルノは、そんな珍しい浴室に大いに戸惑っていた。
「目を閉じていなさいよ」
そう言われて、ルルノはきつく目を閉じる。それを確認してから、婀瓏孅は手桶で湯を汲み、ルルノにかけた。
「……っ」
呻く。全身の傷が痛んだのだ。しかし、どうすることもできないと思ったので、婀瓏孅はそのままお湯を掛けていく。
ルルノの体を伝い床を流れる湯は、黒に近い泥色であった。
何度か湯を掛けてから、婀瓏孅は浴場の隅に行き、そこにある一尺程の箱を開ける。中に入っているものは、婀瓏孅が調合した粉末状の薬。それを一握り掴むと、濡らした手拭いに擦り付ける。それから手拭いを折って、洗濯をする様に摺り合わせた。
「そのまま目を開けないでいて」
充分に薬を付着させた手拭いで、ルルノの全身を拭き始める。
ルルノから、小さく声が漏れた。ひりひりとした痛みもあった。だが、手拭いが上等なのか、それとも薬の所為なのか、それはまるで柔らかい綿で体を拭かれている様な感触で、痛みはすぐに薄れてしまった。それに最初は驚いたが、その心地好さに、徐々に全身から力が抜けていく。
夢見心地のルルノを頭から足までをしっかりと洗うと、婀瓏孅は汚れと薬とを流す為に湯を頭からかける。酷く汚れていた肌は本来の色を取り戻し、乱れていた頭髪も僅かにだが艶を取り戻した。
傷だらけの体と髪が、ようやくそれと認識出来る様になった。
「髪を整えるまでは、しばらく時間が掛かりそうね」
ルルノの髪を手櫛で梳かしながら、婀瓏孅はこの髪も綺麗にしてやりたいと思った。
湯船に入れる前に、どこかふらふらとしているルルノの髪を束ねてやろう。そう考えて婀瓏孅が髪を束ねようとした直後、ルルノはくらりと揺れて、そのまま意識を失って倒れてしまった。
「え?」
何が起こったのか判らず、婀瓏孅は呆然とする。
まさか、薬が強過ぎて死んでしまったのか。そんな不安に、僅かに婀瓏孅の顔から血の気が引く。
「……玉蟾。まさか、そういう悪戯じゃ、ないわよね」
恐る恐るルルノに触れる。心臓は動いており、呼吸はしている。死んだわけではない。そのことに、ひとまず安堵する。




