脱衣所にて
しばらく歩いて、二人は脱衣所に着いた。引き戸を開け中に入ると、婀瓏孅は脱衣籠を目の前に置き、服を脱ぐ為に帯を解こうとする。そこでふとルルノを見やると、ルルノはじっと婀瓏孅を見ているだけで、服を脱ごうとはしていなかった。
「お風呂に入るわよ」
動かない少女に、思わず首を傾げながら婀瓏孅は声を掛ける。
風呂に入ると言ったのだから、てっきり自然と服を脱ぎだすものかと思って見ていたが、ルルノは婀瓏孅を見上げたままで何も行動を起こそうとはしない。
その様子から、この少女は自発的に行動をしないのかもしれないと考え始めた。
「服を脱ぎなさい」
そう言われて、初めてルルノは衣服を脱ぎ始める。安易に育てると言ったことは、少し早まったかも知れないと思えてきた。これの世話は、想像以上に面倒かも知れないと感じてきたのである。
育てたいとは思うが、それはあくまで育っていくのを見たいだけで、自分で苦労して育てたいわけではない。そのことに、婀瓏孅は今になって気付いた。だが、今になって気付いたところでどうすることもできず、どうせなら気付かない方が良かったのかもしれないと思い至ったので、それ以上考えないことにした。
少女がぼろぼろの服を体から引っ剥がしながら脱ぎ終わるまでに、婀瓏孅は小さな溜め息を二回吐いた。
「脱ぎました」
脱いだということを目で確認してもらう為だけの発声。その幼い言葉にまた呆れつつ、目をやって、婀瓏孅は息を呑んだ。
少女の体を改めて見ると、服もぼろぼろではあったが、体もそれに負けずまた随分と酷いものであった。砂にまみれて隠れているが、擦り傷が隈無くあり、痣も多い。足と手を合わせれば七つの爪が剥がれている。足の裏を見れば、履物が壊れていたからだろう、ほぼ足の裏の皮が剥がれ、肉が露出していた。どうすれば、こんな子供がこうも酷い状況になるのだろう。そしてどう生きれば、その痛みをこうも平然と我慢できるのだろう。そう考えると、婀瓏孅は僅かにぞっとする気持ちと共に、改めて少女への興味が湧き始めた。
少し考え込んでいると、どうすれば良いのかを訊ねる様に自分の顔を見上げているルルノと目が合った。それなので、とりあえず思案は後に回し、次の指示を与えることにする。
「それなら、浴場に入っていて。私も脱いだら行くから」
浴場を指差して、短く指示を出す。
それに小さく頷くと、ルルノは浴場へ入っていった。ルルノが浴場の戸を閉めたので中は見えないが、恐らく入ったところで立ち尽くしているのだろう。それを思うと、一々教えるのが面倒という思いも僅かに浮かぶが、それと同時に、痛みで思考が鈍っているのではないかという考えが浮かんでくる。
ともすれば、元気になればこの面倒さもなくなるのだろうか。ともすれば、今はこの面倒さを味わうのも面白いかも知れない。そんなことを考えている自分に気付き、婀瓏孅の頬は自然と緩んだ。
婀瓏孅も衣服を脱ぎ終わると、脱衣所の籠に自分の服を入れて、手拭いを持って浴場に向かう。案の定、ルルノは入ってすぐの位置で、入り口を見つめて立っていた。




